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ばさりとスケッチブックのページを捲る音は風に溶け、 真っ白な洋紙に踊りだす、青。 ベルケンド付近の海に面した小高い丘の上。 そこに生えている一本の木に背を預け、 手先の筆を夢中で走らせている女性がいる。 名は、 「」 呼ばれた刹那、せわしなく動いていた筆先がぴたりと止まる。 それまで瞬きもせず海を凝視していた空色の瞳が、背後を振り返った。 「?・・・あぁ、ガイ」 ふわりとその顔に笑みが零れ、青年もつられて笑ってしまう。 触れられなくとも、 彼にはその笑みがとてつもなく暖かい事だけは解かる。 Feeling Colors 「何処に行ったのかと思えば・・・やっぱりここにいたのか」 半歩距離を開けた所で立ち止まると、 ガイは上からの膝元にあるスケッチブックを覗き込み 一瞬驚嘆したような表情を浮かべ、呟いた。 「流石だな」 「まだまだよ」 その呟きに対しては苦笑いを浮かべ、 そして再び洋紙に筆を走らせ始める。 ガイがある距離以上近寄ってこない理由など 当の昔から承知しているだからこそ、 彼が微妙な位置に立っていても首を傾げたりはしない。 「せっかく明日まで暇が出来たんですもの、またとない機会よ」 「それも、誰かに依頼されている絵なのかい?」 徐々に浮かび上がってくる絵の輪郭は、 丘から見渡せる砂浜と大海、更に大空を縁取っている。 はジェイドと並ぶほどの強力な譜術士であると同時に、 二十歳にしてオールドラント中で認められた優秀な画家でもある。 南はバチカル、北はケテルブルクまで絵に詳しくない人でも その名を知らない者は少ない。 キムラスカ国王やナタリア姫、マルクトのピオニー皇帝や ローレライ教団の導師、イオンの肖像画の製作にも携わっており 城内や宮殿内を見渡せば必ず一枚はの絵が見つかる程である。 そんな貴族御用達の画家である彼女が何故、ルークたちと 行動を共にしているのかはまた別の話。 半歩後ろに腰掛けながらのガイの問いに、は 違うわ、と小さく首を横に振って答えた。 「これは、私が好きで描いてるの」 「は、海が好きなんだな」 洋紙の上で泳ぐように動く筆先を、重ねられていく色達を ガイは物珍しげに目で追っている。 「海は好き。でも、山も好きよ」 空も浮かんでいる雲も好き。人通りのある街並みも好き。 頼まれた絵ばかり描いてても、正直つまらないでしょう? と、空色の瞳が大空を見上げて微笑んだ。 「はは、それもそうだ」 洋紙上に、切り取った様に美しい青空が出来上がる頃、 気付けばガイはの横顔を見つめていた。 「どうしたの?」 ふと、が画板から目を離すと、 ガイと視線が衝突する。 「あぁ、いや・・・」 急な展開に口ごもっていると、 がいたずらっぽく笑みを零し、言った。 「ガイがぼーっとするなんて、珍しいわね」 「うーん、、何ていうか・・・た、楽しそうな顔してるなーって、さ」 狼狽しながら搾り出した答えは、真実の様で真実ではない。 「そう?音機関を目の前にしたあなたには到底敵わないと思うけど」 「う、それってどういう――」 「お互い、没頭できる趣味があって良いって事よ♪」 傍のパレット上に絵筆を置き、が背伸びをする。 どうやら完成した様だ。 「出来たのか?ちょっと見せてー」 「下絵だけどねー。あ、ハイ。目に悪いとか言わないでよ」 砂浜と海と空、海と空は同じ青で描かれている筈なのに ほんの少しの色合いの違いで、同じ色を基にしたとは思えない程 空は澄み、海には深みが出ている。 これで下絵なら、完成品は確かに貴族も欲しがる一品になるだろう。 ガイがスケッチブックを見つめて感嘆の溜息をついていると、 その様を見つめていたが事も無げに言った。 「ガイが画家なら、一体どんな絵を描くのかしらね」 「え?俺?俺は―――――・・・」 にスケッチブックを返しながら、ガイは思考する。 直情的な面も持ち合わせている彼は、あまり迷わない。 もし描けるなら、一体何が描きたいか。 あぁ、あれだ。 「・・・俺は」 その時、背後から聞きなれた声。 「おーいっ!ガイ、!」 「あ、ルーク」 駆けてきたのは赤い短髪の少年。 は振り返り、ルークに微笑みかけた。 「ルーク、どうしたんだ?」 「ジェイドが明日の行動について打ち合わせをしたいから、 すぐに宿に集まれってさ」 「分かった。行きましょ」 「あ、あぁ」 そそくさと画材とスケッチブックを鞄の中に詰め込むと、 ガイよりも早く立ち上がったが先に歩き出す。 「ガイ」 置いていかれまいと慌てて立ち上がったガイを、 は半歩の距離を置いて振り返った。 「ん?」 「今度、暇な時にでも音機関の話、聞かせてくれない?」 「あぁ、いいよ」 緩やかな向かい風を受けながら、 ルークと、そのすぐ後ろに、 少し遅れてガイの三人は歩き出した。 ルークと他愛も無い会話を始めたの背を見つめて、 彼は微笑む。 「俺は、さっきの君の横顔なら、描いてみたい気がするよ」 冒険の合間の、 とあるのんびりとした小春日和の午後のお話。 end |