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休日の過ごし方 マルクト帝国国立図書館。軍部での(人遣いの荒い上司からの無理難題ずくめな)厳しい勤務から解放される数少ない休日の昼頃、は書物に埋もれていた。あとがきまできっちり読み切り、満足そうに微笑むとはぱたりと本を閉じた。 「ふー。やっぱ良いな、3年Z組銀八先生シリーズは」 シリーズ最新刊3冊程を朝から今までで一気に読破。午後はシリーズではない興味のある学問書の新刊を網羅する予定だ。 所蔵冊数も広さもスペースも申し分ないこの図書館。だが一つだけ、気に入らない所がある。 「…く」 ぐっと手を伸ばす。爪先に力が籠もる。だが、 「(と、届かない)」 最上段が如何せん高すぎる。いや、成人、特に男性の基準から言えばそんなには高くはない。ただ、小柄に属するや、標準的な体格の女性でも脚立がいる。それくらいだ。なのに脚立はこの広大な図書館中探しても3台しかないなんて、信じられない。 私がこの図書館の事務員だったら真っ先に脚立を発注するわ。とは尚も腕を延ばしながら眉を潜めた。 と、 「これですか?」 「あ」 ひょいと横から延びてきた手が目的の本を軽々棚から取り出した。 「す、すみません、脚立が見当たらなくって…」 大の大人が背伸びだなんて、恥ずかしい所を見られてしまった。急いで隣を振り返ったは、 「助かりまし…た…!」 固まった。心臓が破裂しそうになる程驚いた。 「ふむ…精神構造の解明第4巻、性別と思考……」 「…!」 結われた金髪に、いつもの青とは違う落ち着いた服装。だけども変わらない眼鏡、の奥の紅色の瞳。 「た…大佐…!?何でこんな所に」 「いやですねぇ〜、私も学者の端くれですから。休日ぐらい図書館で書物に埋もれるのもいいかと思いまして」 「…そ、そうなんですか」 飄々として掴みどころが無いこの男。マルクト帝国軍第三師団師団長を務めるジェイド・カーティス大佐。三十五歳。とは思えない端正な顔立ちと紳士的な振る舞いから評判は良いがに言わせてみればそんなもの、薄っぺらい仮面だ。 いつも浮かべている笑顔だって、最近では本物かどうか怪しく思えてくる時がある。 「所で」 「はい?」 「…、男性の事でお悩みなら、私でよければ聞いて差し上げますよ?」 顔を覗き込まれた瞬間、背筋に変なものが迸った。 「い、いやいや急に現れて、な、何を言い出すやら!別に…そういう理由でこの本を読もうとしてたんじゃありません、端から適当に読み漁ってるんです」 「そうですか?」 何が、聞いて差し上げますよ、だ。 それではお言葉に甘えさせて頂いて、とは口が裂けても言えない。 まさか、悩みの種が他の誰でもない目の前にいる似非優男だなんて、決して悟られてはいけない。受け取った本を脇に隠すとは如何にしてこの場をうまく誤魔化すか頭を悩ませたが、直後、意外な展開が待ち受けていた。 「…?―?」 「…?!は、はい、何ですか」 「もしお手透きなら、今度の会議に関して探している書物がいくつかあるので手伝っていただけませんか」 「?あ…はい、手伝います!」 「助かります」 威勢良く答えただったが、指示された書物を探し始めた所でふと思った。 「(って、何してるんだ、私)」 本棚の隙間から隣の列にいるジェイドの後ろ姿が垣間見える。 当たり前の様に答えたが、休日の昼下がり、非番の日のはずなのに、何故またこの男と一緒にいるのだろう。 人使いも荒くブラックジョークで脅かされる事もしばしば。だがこの男の周りには慕って忠誠を誓う部下が沢山いる。多分、自分もその一人だと言われれば否定はできない。 そもそも、嫌なら手伝うはずもなく。自分に正直なは、そういう自分の事もいい加減自覚はしていた。 「(寧ろ、)」 これはラッキーなんじゃなかろうか。 「見つかりましたか?」 「っ?!はい!?あ、全部ありましたよ」 全部で七冊程だったがどれも分野が偏っていたので探すのに苦労はしなかった。両手に書物を抱えながら歩み寄ってきたジェイドを見上げた。当のジェイドはの二倍程の書物を軽々と抱えている。 「大丈夫ですか?さっきからぼんやりして…あ、休日ボケですか」 「な…ち、ちがいます」 「まぁ、非番の日ですから構いませんがね。では、それを持ってついて来て下さい」 ふっと笑った顔が、気のせいか、いつもと違う様に見えた。 「?…、はい」 ロビーを横切り図書館の二階への螺旋階段を上ると、大きめの机が並ぶ広場に出た。吹き抜けになっていて階下が見渡せる様になっており、一階と比べ二階はより専門的な調べものをするための設備が整えられている。滅多に二階へ上らないは物珍しげに周りを見回しながらジェイドの後を追っていたが、「ここに置いて下さい」と促された机を見ては唖然とした。 「…汚い」 「作業途中ですから、致し方ありません」 紙、紙、紙、紙。開きっぱなしの本が何冊かと、転がっている羽ペン。 そういえば執務室もいつもは片付いているのに作業途中は猛烈な荒れ様だった気がしないでもない。癖のようなものだろうか、と机の上に書物をしずかに置きながらまじまじとその荒れようを眺めた。ただ、休日だと聞いたはずだが、もはやこの様子では通常の業務の域に達しているのは確かだ。 「普通に仕事じゃないですか、これ。…「譜術の戦術的配置に関する考察・三」、「第三音素及び譜術の活用法則」…って、これ大佐の書いた本?!すごい…」 「研究所の方の軍事会議で、新しい譜陣の配置を考える事になったので…その下準備です」 書物を机の上に置いたジェイドは椅子に腰掛けると、小さくため息をついた。 「研究所の方の会議にも参加してるんですね」 「一応これでも主任を任されていますので」 「はあ」 途方もない話だ。元々のキャパシティが違うのだろうが、休みの日まで仕事をしていたジェイドに、大した事もしていないのに人使いが荒いやら不平を募らせていたはほんの少し申し訳ない気持ちになった。 「、助かりました。もう大丈夫ですよ」 作業に戻ろうと本を開き、羽ペンを持ったジェイドを見て、少し黙っていただったが、意を決した様に口を開く。 「あ…えっと…他に、私に何か手伝える事、ないですか?」 「!」 顔を上げたジェイドが僅かに目を見張ったが(それでも、彼にしては十分過ぎる程感情が露呈した方なのだが)、それ以上に言った本人が一番驚いた。 「しかし、非番のあなたに手伝わせるのは…」 「大佐だって非番ですよね?なら、早く終わらせた方が良いですよ。私の読みたい本はいつでも読めるので、その辺りは気にしなくていいです」 とはいえ、研究所の方の会議の内容なんて専門的過ぎて目録を作る位しか手伝える事がないのが悲しいかな事実。それでも放っておけないと思ったので声を掛けた事は後悔していないが。 「まぁ、私、大佐みたいに頭良くないんで、手伝える事なんてないかもしれないですけど…」 反らしていた目線を上げると、ジェイドと目が合った。眼鏡の位置を直すと、 「では、たまにはお言葉に甘えさせていただきますかね」 いつもの微笑みにつられても笑顔になる。 「あ、でもあまり活躍を期待しないで下さいね!」 「重々承知していますよ」 「なら安心です(こ、この野郎!)」 「それでは、コーヒーを」 「はい……って大佐、ここは図書館です。執務室の様に好き放題はできません」 「そこを何とか…手伝いを申し出たのはあなたですよね?」 「ちょ…w」 「しっかり手伝ってもらいますよw」 何だか上手くはめられた様な気がする、そんな昼下がり。休みが被った時、二人が示し合わせた様に図書館の二階で休日を共に過ごす様になるまで、まだ少し遠い昼下がり。 end |