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見つめる階下 「(また来ている)」 ふと歩みが止まる。書物片手に吹き抜けから階下を見下ろすと、並ぶ本棚の間々にいる民間人に紛れて、見覚えのある後ろ姿。 先々週は隣の棚だったが、目星のものを読み尽くしたのだろうか。何冊かを抱えると棚の間を抜けて小さな机と椅子が並ぶ広場に歩いていく。端から二番目の席が所定の位置らしい。先客が居るときは一つ空けて更に内側の席に座る。 紺色のカーディガンに薄墨色の膝丈のスカート。勤務中、結い上げられている茶髪は休日仕様で首の横でまとめられている。 時々垣間見える顔が少々無愛想なのは普段愛想を振り撒いて仕事をしている反動か。自分のからかい半分の無理難題を嫌々了承した時に見せる顔と似ている。とジェイドは再び歩みを進めながら小さく笑った。 嫌々了承するものの、手を抜いたりは決してしない。だから他に任せるのが少々不安と思う難しいものはつい、全部彼女に任せてしまう。負担を考えれば悪いとは思わなくもないが、それを言外に信用している証と解ってもらえていたら、と思う方が多い。 数時間後、昼下がりになる頃。再び席を立つ。 「(音素と譜術の分野の棚は…そういえば一階だったな)」 非番の部下はまだいるだろうか。いたら今度は声を掛ける位はしてみても良い、かも知れない。自分にしては珍しい心持ちだと僅かに驚嘆しながら螺旋階段を下る。 一階の本棚の群れを順に通り過ぎる。読書の最中なら邪魔をするのも悪いのでパスだ、と思った直後だった。 「…く…」 視界に入ってきた、精一杯の背伸びで本棚の最上段へ腕を伸ばしている、必死な横顔。 そういえば、彼女の身長を考えると此処の本棚は少々高過ぎる。 「(脚立を探せばいいだろうに、、まぁ、三台しか無いものを探すのが煩わしいのは解らなくもないですがね…)」 仕方ない、と言わんばかりに小さくため息をつくとジェイドは背伸びを披露し続ける報われない彼女の元へ歩み寄る。その歩みは軽い。 「これですか?」 「あ」 何より、無理難題を押し付けるのも、仕事を任せば彼女が必ず自分の元を訪ねて来るから、という単純な事柄に起因しているに過ぎないのだが。 end |