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体の内側が熱い。 頭の芯が麻痺した様なこの感覚と身体に纏いつくだるさは 幼い頃に僅かながら経験した事がある、様な気がする。 それまで、"ある様子"を見てただ訝しんでいたルークが ついにそれを口にした。 「…っていうかジェイド、 さっきから何かボーっとして全然食べてないけど…どうしたんだ?」 宿で食卓を囲むメンバーの視線が、一斉に彼に向けられる。 事態の急変に、ジェイドは軽く双眸を見開いた。 「…そ…そうですか?」 「そういえばそうですわね、どのお皿も殆ど運ばれてきたまま―」 「実は俺も思ってた。旦那がボーっとするなんて、珍しいな」 「熱でもあるんじゃないですかぁ〜??」 「…」 いつもならここで嫌味の一つでも返すのが通例だが 不思議な事に今日は何も返ってこない。 訪れた沈黙に誰もが驚いた、その時。 がたん。 「?」 ジェイドの斜め向かいに席を設けていたが突然立ち上がった。 づかづかと食卓を一周し、 首を傾げているジェイドの元へ無言で歩み寄ると探るようにその顔を覗き込む。 「…」 尚も無言のままのに、思わず、 「、私の顔に何か――」 ついてますか。 と、そこまで言おうとするが、それは簡単に遮られてしまう。 唐突に自分の額に当てられた、ひんやりとした女の掌によって。 数秒後、結論が出たのか 掌を離したが沈黙を破る。 誰もが予想していなかった言葉が飛び出した。 「―――医者を、呼んで頂戴」 「!」 「「「…えぇぇえ!?」」」 椅子から転げ落ちるほど驚いた仲間達を見、 未だに状況整理がつかないジェイドに視線を移すと はふと苦笑いを浮べ、続けた。 「こんな事もあるもんなのねぇ、、 医者が、医者の世話にならなきゃいけなくなるなんて」 医者の不養生 ベルケンドの宿からシュウが去ったのは、時計の針が夜の十時を回った頃。 「じゃぁ、指定した時間通りにこの薬を飲ませて… まぁ、薬の事は本人の方が分かるかもしれないが」 「ありがとうございます」 しかし珍しいこともあるもんだな、と 先刻が浮べた笑みと似たような顔をし、シュウは帰っていった。 「・・・・さて、と」 薬袋を小脇に抱え、は宿の入り口から踵を返して歩き出す。 とある一室の前まで辿り着くと、静かにドアノブを捻った。 そんな間にも溜息が漏れる。原因は不明だ。 扉の向こうへ足を踏み入れ、音も無く扉を閉めると 更に部屋の奥を振り返った。 目線は一直線に奥に備え付けられたベッドに向けられる。 ベッドサイドの譜石式ランプのみで照らされる部屋は薄暗いが、 そこから身を起こした状態でこちらを見ている人物の表情くらいは 容易に伺い知る事が出来た。 「調子は?」 問い掛けながらベッドの脇に椅子を引き寄せ、座る。 「いやぁ、驚きましたよ」 帰ってきた言葉とどこかぎこちなくも根強く残る微笑みに、 は一瞬肩を落とし呆れた様に言った。 「こっちが驚かされたわ、…全く、こういうの何ていうか知ってる?――」 「医者の不養生、とか」 「…分かってるんじゃない」 ランプに照らされているジェイドの顔は どことなく赤みがかっている様に見える。 元が色白なので尚更、そう見えるだけなのかも知れないが。 「…私としたことが、迂闊でした」 自嘲気味な笑みを零しながら、呟いたジェイドに対し、 視線を上に泳がせていたが居直ると同時に含み笑いを浮べた。 「あぁ…あの時の言葉、そっくりそのままお返し致します」 「あの時の言葉?」 「"あなたは、もっと自己管理の出来る方だと思っていたんですがね"、って」 「・・・あぁ、、」 甦るは、ケテルブルクでの記憶。 人生の中でもしかしたら一番(心配し過ぎて)気力を使ったあの時の事を ジェイドは放心状態に近い脳裏で何とか探り当てた。 「・・・見損なわれた、という事ですね。私も」 あの時は、まさか自分がその台詞を言われることになろうとは 考えもしなかった。 だが、どんな嫌味が返ってくるかと思いきや、 次にが浮べた表情は、 「まぁ・・・そういう訳でも無いんだけど…」 申し訳なさそうな、苦笑い。 「?」 「何ていうか・・・ 大佐がこんな事になるなんて誰も予想してなかったけど、 でも、そうなる位、有り得ない位無理させてたのは・・・ ・・・間違いなく私達なんだなって」 こうなってから気付いても、全部手遅れなんだけどね。 ジェイドは、一瞬言葉に詰まった。 「・・・。――」 名前を呼ばれた瞬間、は我に返ったように 俯いていた顔を上げる。 「――あ、いいのいいの!気にしないで。 それより、皆は?私がシュウを見送りに行く時はいた筈だけど…」 予想だにしない事態に憔悴しきった仲間達は とりあえず安静にしなければとジェイドを寝かせ、 二十四時間の看病当番の計画まで立てかけていた。 がシュウの見送りのため、部屋を後にする直前までの話だが。 と、見え透いた話題ずらしの話だが 珍しくジェイドは乗ってみる事にした。 これも風邪のせいだろうか。 「・・・。皆さんには、先に休むように言いました。 私達の中で病気を流行らす訳にはいきませんからね」 「・・・そうですか」 「・・・がいますし」 「私には風邪うつっても良いんですか」 「もしうつったらまた私が看病してあげますよ」 「そういう問題じゃなくて・・・あぁ・・・」 最初は有利な立場にいると思ったが、どうやらそれは勘違いだったらしい。 という事に気付いたは思わず溜息を漏らしてしまった。 筋金入りの曲者は、風邪を引いても強い。 「何か、元気になってますね、大佐」 「あなたのおかげですよ」 「・・・。・・・もう熱下がったんじゃないですか?」 返す言葉が無く、看病に徹することにしたが中腰になり ジェイドの額に手を伸ばす。 伝わってきた最初に触れられた時そのままの ひんやりとした掌の温度の心地よさに、ジェイドは思わず双眸を細めた。 「どうですか、先生。・・・多少の眠気に襲われてるんですが」 「うーん・・・食事の時に触った時よりかは熱は下がってるみたいね、 冗談も言える様だし、薬が効いてきたんじゃない?」 素直な笑みを浮かべたが額から手を離そうとした瞬間、 その細い手首をジェイドの大きな手が掴んだ。 「・・・この眠気は、薬の副作用という事ですね」 「多分そう。頭がボーっとしてたのとか、体のだるさとかはどう? ・・・って、こんな事する元気があるなら、もう大丈夫よね」 ベッドに押さえつけられている自分の両掌を交互に見た後、 は正面の微笑みを見上げた。 数秒前まで、中腰でベッド脇に立っていた筈なのだが。 腕一本引き寄せられたかと思った次の瞬間には組み敷かれているこの現実。 どうにかしようと足掻いても、 悲しいかな純粋に力関係を考えただけで、どうにかなる気が失せてしまう。 「・・・病人は大人しくしてなきゃダメ。治るものも治ら・・・・・・」 の頬を、美しい金髪が撫でた。 やはり薬で完璧に風邪の諸症状が消える訳ではない様だ。 熱を感じたのは、触れ合った唇。とそれを割って侵入してきたもの。 解放された瞬間、はジェイド以上に顔を赤くして憤った。 「―――っっ本気でうつす気!?」 「いやーすみませんねぇ、あんまりにも無防備たっだので、ついw」 「っていうかそこまで元気になったんなら、ご飯食べれるでしょ。 夕食全く食べてないんだから何か食べなさい!」 「大丈夫ですよ。私が今一番食べたいものは目の前に、、」 「はぁああぁ!?病人が何調子乗って――・・・・・・・・・・・・って」 何が大丈夫なんだ!と心の中で叫んだ瞬間、異変が起こった。 にとっては、神が手を差し伸べてくれたと 言い現しても過言ではない事態。 不意に言葉が途切れ始めたかと思うと、 ジェイドが一瞬、眉を潜めた。 「目の前に・・・いるの・・・です・・・が・・・」 「大佐・・・!?」 突如、どさりとジェイドの全体重がの上にのしかかる。 「ちょっ、何・・・お、もい・・・ってば!!・・・・・・もしかして・・・」 自らの動作を止め、耳をすますと聞こえてきた僅かな寝息に は何が起こったか察し、瞠目した。 そして内心は、感極まっていた。 マルクト最大の曲者も、薬の副作用には勝てないらしい。 ありがとう副作用、ありがとう薬、ありがとうシュウ。 そして何とか下敷きになっていた状態から脱したは しかしそのままベッドから退こうと伸ばした足を少し迷った後、引っ込めた。 「・・・・・・」 横を見下ろすと、少々の風邪による息の荒さはあるが 安らかに眠る、彼の寝顔。 手を伸ばしてそっと眼鏡を奪い取ると、ランプの傍に置く。 「・・・ホントに風邪うつったら、パシリになってもらうからね」 再び、今度は自ら隣に横になり、 布団を頭の辺りまで引っ張り上げたは、そして目を閉じた。 end |