砂原デイブレーク





ケセドニアの宿の屋上。日の出少し前、薄明るんだ雲一つ無い高い空を、深呼吸しながら見上げた。



「…やっぱり朝の空気は良いわねぇ」
「はい、空気が澄んでいて気持ちが良いものです」



…間。



「…ん!?!」



勢い良く振り返った先に、は旅の同行者の姿を認める。



「おはようございます、…おや、驚かせてしまいましたか?」



にこりと微笑んだその顔にいつもはある筈の逆光眼鏡は無い。この男が脱レンズ状態で人前に出るのは多分珍しい。



「た、大佐……………驚かせるつもりだったんじゃないですか、元から」
「とんでもない、朝っぱらからそんなふざけたりしませんよ〜」
「どーだか。ま、いいけど。何かあったの?」
「いえ?私も外の空気が吸いたくなって出てきただけです」
「そう」



つくづく喰えない奴だ。 しかし、そんな事を気にする事すら勿体無い瞬間を、空が迎え始めていた。



「…夜が明ける」
「ええ」



ジェイドは極自然にの隣に並ぶと、共に砂漠の空を見渡した。



地平線が赤く染まり、一点から漏れだした光の膜が空を覆っていく。薄明るかった空が白に染まる。僅かに二人の間を吹き抜ける砂漠の風は昼間の熱風とは程遠く、澄み切った朝の訪れを告げていた。





「…また、1日が始まる」
「騒がしい1日が」
「ふふ、嬉しそうね」
「まさか。ご冗談を」
「そう?」



朝を伝える鶏の甲高い鳴き声を合図に、街が眠りから覚醒し始める。


一瞬ジェイドの顔を覗いたがいたずらっぽく微笑み、踵を返した。



「?何ですか?」



「…眼鏡、無い方も中々良いわよ」
「!」


少し驚いたのか、ジェイドが僅かに目を見張った。そしてふっと微笑むと。



「…知ってます」
「うわ、ヤなやつ…ってそれも分かりきった事か」
「言ってくれますねぇ」





何気ない雑談。憩いの時。戦いの旅の合間の一幕、形はどうであれ共にした時間は事実、歴史となる。 それを思い出とも言う。
数え切れない思い出と共に、また今日も歩んでいく。だからこそ、また戦える。




「お互い様!さ、今日は早く発つって言ってたの大佐でしょ、行きましょう」





「ええ、生きますとも」





end