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幹に背を預け、木陰に腰を下ろしていると訪れる、 どうしても避けられぬ心地よさと眠気に早くもうとうとし始めた、ちょうどその時だった。 「隣り、良いですか」 来た。 each one of us 「…どーぞ」 私はいつもの如く気の無い返事をする。 旅の途中で宿を取る際に与えられる数少ない自由時間に この男、ジェイド・カーティスが 私の所にやってくる事は既に珍しいことではなくなってしまっている。 金色の長髪、緋色の目、微笑み。 どれをとっても美しいという形容詞を逃す事の無い逸材を兼ね備えているこの男が それでも三十五歳だなんて、嘘だ。絶対嘘だ。嘘に違いない。 と、私は思いたい。 そんな事を考えながらも、脳内の半分は眠気に汚染されているので 油断をすれば欠伸も出る。 仕方の無いことだ、人は誰しも眠る生き物。 「すみませんねぇ、お休み中だったのにお邪魔してしまって」 お詫びの気持ちなんて毛程も籠もっちゃいない。 何を根拠にと問われれば、他ならぬその微笑みが何よりの証拠だ。 「ホントに思ってないでしょ」 「…わかります?」 「・・・も、いい」 ゆったりと腰を下ろした位置がこれまた近い。 近くで見ると尚更綺麗だ。いや違う、そんな事を言いたいんじゃない、落ち着け私。 突っ込み所がここまで多くなると もしや全て仕組まれているのではないかと思ってしまう。 私は知らず内にこの男の掌の上で踊らされているという事なのか。 赤い靴を履いた少女の様に、抗うことなど出来はしないのか。 隣で片膝を立てて腰を降ろし、 両瞼を落として寛いだ様子の男を私は横目でチラリと垣間見た。 それでも、この男が傍にいる事はそれほど不快には感じない。 むしろ…・・・いや、やめておこう。 彼は仲間、皆仲間。旅をしている仲間。 旅が終われば多くの場合はそれまでだ。 今後会うことは、無い、かもしれない。 仕方の無いこと、人は誰しも別れを経験する。 そうこうしていると、あらぬ方向を向いていた彼が突如瞼を上げ、 私の思考が一巡りするのを待っていたかの様なタイミングで口を開く。 この男、もしや心が読めるのか。 「…」 「何」 「膝、貸してください」 「はいはい・・・・・・・・・はい?」 「それでは遠慮なく」 「ぁ、ちょっと、まだ―」 まだ良いって言ってないのに。 そもそも答えなんて聞く気は無いのだろう。 寛容に見えてそういう強引な所もある。 彼は、そういう面も持ち合わせている男、なのだ。 崩していた膝の上に静かに重力が加わり、美しい金髪が太股を撫でる。 こちら側にやや背を向けた状態で横になった彼の顔を軽く覗き込むと 私はそこで始めて、彼の、今の本当の表情を捉える事ができた。 「…ひどい顔ね」 そう言われて、ほんの少し眉間に皺を寄せた彼。 私は思わず苦笑いを浮べてしまう。 「……少し、疲れました」 そして彼の唇から漏れ出た溜息は いつもの物事に呆れた時に見せるものではなく まるで一日中働きづめで帰ってきた一家の主人のものの様だった。 多くは語らなくても解る。 たった一言、それが本当は不器用な彼にできる、精一杯の"甘え"。 そうして私は、あやす様に彼のきれいな金髪を撫で 一度だけキスを送る。 本当に指通りの良い柔らかい髪だ。指先に絡ませた感触が、長く残ればいいと思う。 すぐに離れていく唇を惜しむかのように 思わず私の頬に手を伸ばした彼は、自嘲気味に笑んだ。 「…我ながら情けないですね」 「仕方の無い事、人は誰しも、頑張っていれば どこかで必ず疲れてしまう生き物だもの」 「私は頑張っている内に入るんでしょうか…」 「入ると思う………―もう」 促されるまま、私はまた 彼の唇にキスを送る。 今度はもっと長く、そして深く。 結局は、彼のペースだった。 逆らえぬ桎梏を、私は既に受け入れている。 木陰で紡がれる愛を 誰が邪魔できようか。 仕方の無い事。人は誰しも、恋をする生き物。 end |