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憂いの瞳-14 早朝にとアニスの二人がセントビナーを発ってしばらくした頃。正午を過ぎた頃だろうか、今度はイオンを無事救出したルーク達がセントビナーに到着した。 町の入り口に張り込んでいた神託の盾騎士団の目からもエンゲーブのローズ夫人の助力によって事無きを得、町の中へと踏み込んだ一行はその直後、宿屋ではなく傍の茂みへと身を潜ませることになった。 「六神将がもうここまで・・・!?」 門付近に見える何人かの人影は、タルタロスで対峙した者達、六神将に間違いなかった。 「(リグレット教官・・・)」 こちらに気付かず仲間と会話しているリグレットの背を、ティアは人知れず見つめていた。 「タルタロスの位置から考えるとこの街が一番近いからな」 土地勘を発揮しているのは、イオン救出の際に仲間に加わった青年、ガイ・セシル。ルークの使用人である。 「追っ手が来るのも早くて当然ですね」 「この分では、アニスとはもういないのでは・・・?」 「恐らく」 ただ街並みを見ると、どうやら町の長は神託の盾騎士団の駐留を許しはしなかった事が見て取れる。 とその時、聞こえてきたのは六神将達と報告に来た兵士達の会話。皆、各々の思考を停止させ耳を欹てていると、 「導師は見つかったか?」 「いえ、ここには―」 「―――」 「マルクトの奴ら、我らの要求を――」 「―ない、余計な争いは――」 「よく聞こえねぇっつーの」 ルークが嘯く。 やがて下級兵士が去り、その場は幹部達だけになると一行が潜んでいる茂みから一番遠くにいる、濃緑の髪に仮面を着けた少年が口を開いた。タルタロスには居なかった顔だ。 「で、導師守護役がうろついてたっていうのはどうなったのさ」 少年の声を聞いたイオンが一瞬表情を曇らせる。その僅かな変化を、近くにいたジェイドは見逃さなかった。 「あぁ、マルクト軍と接触していた様だが、今はもうここにはいない。…"第七の瞳"とフーブラス川方面に向かったのを今朝、確認した」 腕を深く組み、瞼を下ろしたままリグレットが答えるとアリエッタが怯えたように腕の中のぬいぐるみを抱え直した。 リグレットの言葉に仮面の少年が目元が見えなくとも解かる位、ピクリと反応を示す。 「第七の瞳?」 確認の言葉に、代弁する様にアリエッタが深く頷く。 「へぇ、生きてたんだ。総長には―」 「もう伝えた・・・です」 意外そうな、それでいて当たり前の事の様に少年は口元に笑みを滲ませた。 「じゃぁ今この町には、導師も、導師守護役もその他僕らが追ってる奴らは皆いないって事になるよね」 実は密かに椅子に乗って降りてきていた六神将が一人、"死神ディスト"が一人で舞い上がっているのを背後に、先刻意識を取り戻したばかりのラルゴは肩を少し落としながら言う。 「俺があの"死霊使い"共に遅れを取らなければ、あの導師守護役を取り逃がす事もなかっただろう…面目ない…」 「ま、今回は気にしない方がいいかもね。死霊使いと第七の瞳相手にして、生き残れた事に感謝したら?傷が癒えるまで大人しくさせておく様に、総長にも伝えておくよ」 皮肉に見えて、この少年がフォローを入れるのは珍しい。リグレットも短く溜息をついた後、ディストを完全に無視して腕組みを解いた。 「過ぎた事を言っても始まらないだろう…どうする、シンク」 呼ばれた仮面の少年、六神将・烈風のシンクは四人の顔を順番に見た後、 「エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させる」 決断した。 どのみちこのルートではカイツール国境を越えていくしかない事は解かっているのだから。カイツールででどう待ち受けるか、リグレットの提案で六神将はタルタロスに戻るという結論に達した様だ。 第一師団の撤退を命ずる号令が、直後、セントビナーに響いた。 「"第七の瞳"って…」 一人首を傾げていたガイに気付いたイオンが、茂みに腰を下ろしたまま微笑し小声で応える。 「あぁ、ガイはまだ会った事がありませんよね。第七の瞳とは教団で呼ばれていた二つ名で、…・という女性の事です。貴方と合流するほんの少し前までは一緒にいたのですが、アニスと一緒にタルタロスから落ちてしまって以来―」 …? どこかで聞いた様な…。 再び首を傾げたガイだったが、一瞬刮目した後、すぐに表情を引き締める。 思い当たった記憶は、ここでは決してつまびらかにしてはならないものだった。 「―…じゃぁ、アニスって子と合流する時にでも一緒に挨拶させてもらうかな」 「そうですね、元導師守護役で、今はマルクト帝国軍の少佐を勤められています。とても落ち着いた、頼りになる女性ですよ」 ふう、と深く息をついたイオンを見て、すっとジェイドが茂みから立ち上がる。 「基地でこの町の代表から話を伺ってから、宿へ向かいましょう。イオン様の身体が心配です」 「あ、あぁ、そうだな」 ふと脳裏によぎった落ち着き払ったあの声。暫し見ていない橙色の瞳を一瞬思い浮かべ、無意識の内に眼鏡の位置を直したジェイドは兵士達の去った広場を横切り皆を先導して基地へ向かって歩き出した。 懐には預かっている特異な性質を持った短刀の重みが確かにある。 「(・・・これを必要とするような事態に遭っていなければ良いのですが)」 六神将の話を聞いた限りでは、それはとても難しい事の様に思えた。 憂いの瞳-14 end |