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コンコン 「?」 首を傾げて時計を見上げる。窓の外もすっかり暗闇に染まった十時頃。ちなみに、帝国軍のとりあえずの上がり時間は七時位。まぁ軍なのでそういった時間設定はあって無いようなものなのだが。 の場合今日は仕事が少なかったため定刻通りに帰宅できたが会議などで忙しい人ならまだ職務に就いているだろう。 ともあれ、こんな時間に一体誰だ。そもそもここに人が訪ねてくること自体珍しいのに。郵便が届く時間でもない。 「まさか…ね、っと」 ふと湧いた予想に小さくかぶりを振り、玄関へと向かう。だが、扉の鍵を開けながら覗いた小窓の先に見えたものに、は少し目を見張った。 そしてためらいなく扉を開く。 「どうも」 今晩和も一言も言えないのか。とは言わない。もう慣れてしまった。 金髪にレンズの向こうの紅い眼が映える、軍服姿の男。端正な顔立ちに笑みが浮かんでいる。背は高くやや小柄に属するは幼子が親を見上げる如く笑顔で仰いだ。 「今日は夜通し会議だと…私の勘違いだったかな?まぁいいんだけど」 「見立てより各部署の仕事が進んでいなかったもので、打ち合わせするにも内容が揃ってなかったんです。なので早々に切り上げて帰らせましたよ」 さっと玄関に上がり込んだ男を背に、は部屋に戻った。そして聞こえる位の声で、 「困ったものね…もしかしてそれでアナタ、機嫌悪いの?」 ガチャリ、と鍵を掛ける音がして足音が近付いてくる。 「そんな事は…ある、かもしれません」 「そう」 くすくすとが笑いかけると、男は上着を壁に掛けながら、悩ましげに溜め息をついた。 「分かりますか」 「んー、ジェイドって本当は笑ってない時程笑みが深くなるでしょ。それで何か不自然な感じがするのよ。悪寒が走るから分かるの」 「悪寒…随分な言われようですねぇ…」 「ふふ、アナタが上手く隠せなくなったか、私が解る様になったか、果たしてどちらかしらね」 「まぁ、私ももう年ですからね…そろそろ本音が滲み出てくる頃なんでしょう。 …解るようになったと言うなら、少々は多めに見てくれますよね?」 向かいのベッドに腰を下ろしていたの元に歩み寄ると、右手でそっと髪に触れた。真っ直ぐ見上げていたの視線が虚空へ迷う。髪から頬へと撫でる大きな掌に小さい掌が重なり、髪を梳く見た目よりたくましい指に細い指が絡んだ。 同じくベッドの、の横に腰を降ろすと空いている方の腕で彼女の華奢な体を引き寄せる。腰掛けて、触れ合う程近付いても目線は彼の方が断然上だが、その瞬間を待っていたかの様にはもう片方の手を伸ばし、何をするかと思えば、 「っ、荒っぽく扱わないでもらえますか」 伸ばした先、標的は眼鏡。奪おうと縁を掴もうとするが賺さず手を抑えられ、 「」 「だって、」 「どうせ邪魔になるんですから、自分で外しますよ」 それでも眼鏡が少しずれたジェイドは、何か面白い。いや、すごく面白い。 そんな風に思っている内にいつの間にかずれた眼鏡のレンズ越し、紅い眼に見下ろされていた。即ち、組み敷かれていた。 「もう少しだったのに…」 「残念。惜しかったとは思いますが」 「む…」 そして無言で見つめ合ったのも刹那、の呼吸が塞がれる。頬を撫でたのはジェイドの滑らかな金髪。柔らかい唇の感触。 一旦唇を離したジェイドは、今度は自ら眼鏡を外し、小さく笑った。 「やはり邪魔でした」 「ほらね」 レンズ越しでないジェイドの紅い眼が僅かに動き、視線の先に運んだ腕で外した眼鏡をテーブルに置いた。そして魅入られた様に身動き一つ出来なかったはまた、容易く呼吸を奪われる。 自由を奪われるのも好き勝手されるのも構わない。そう思うのは恐らく、彼に対して少なからずの好意を持っているという証拠。ただ、ほんの少しそれが悔しいから、 せめて眼鏡ぐらい、外させて欲しい。 end |