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「あ〜やっと着いたぁ…」 「でも思ってたより大分早く着いたんじゃないか?」 「ルークが休憩あんまりしたがらなくなったから、ペースが上がったんじゃないの?」 「なっ!?そんな事…!!…そ、そうなのか?」 「ふふ、冗談よ」 「〜!!」 に窘められたルークが流通都市ケセドニアの賑わう町並みを見上げて 一気に疲労感を露にした。 一行は宿屋に向かって歩き出す。 「今日はここで一泊ですわね」 「キムラスカ側の宿が空いてるそうだから、とりあえず部屋だけ取って 今日は自由行動にしましょう」 ナタリアとティアが砂漠越えで被った砂を払いながら並んで歩くその後ろでは、 「わ〜いwイオン様、アスターさん家に行きましょぉ!」 辺りにハートを撒き散らしながらアニスがイオンの手を引いている。 その様を見てジェイドが呆れたように笑みを零した。 「アニスはあの豪邸が大好きですねぇ」 「もっちろんですぅ☆広いし豪華だしまさに楽園じゃないですか! あ、大佐も行きますぅ?」 「慎んで遠慮しておきます、用事もありますのでw」 いつもの笑みを浮べながらそう言い、皆に一声掛けた後、長身の男は一団を離れた。 その後姿すら何故か優雅に見えるのは、永遠の謎であるが。 つれないなぁと唇を尖らせたアニスだったが、頭の中は既に豪邸の事で一杯の様で口元が緩んでいる。 「ま、いっか。じゃっ、イオン様ぁw」 「アニス、焦らなくても屋敷は逃げませんから、ゆっくり行きましょう」 「ハ〜イw」 一見すれば微笑ましい光景を、は苦笑いで一瞥し次いで空を仰いだ。 「(今日もいい天気ね)」 溝 に 降 る 雨 -前編 一行がケセドニアに到着してしばらくした頃、 キムラスカ側の宿にはルーク、ティア、の三人の姿があった。 「ティア、いつもの訓練―――」 訓練、とは超振動を制御する訓練の事。やる気満々のルークに、しかしティアは訝しげな顔をした。 「あら、あなた今日買出し当番でしょう?」 「え゛っ!?あ…そういえばそうだった!!」 「しっかりしなさい、ほら、買出し表も此処にあるわ」 ルークが受け取った掌サイズの紙切れには、上から下までびっちりと品物が記されている。 かなりの手間が予想され、ルークはがっくりと肩を落とした。 「ぅわ、こりゃまた多いなー…あ〜ぁ、せっかく久々にじっくり訓練出来ると思ったのに…」 「仕方ないわ、当番は当番だもの。訓練は買出しが終わった後にしましょう」 「ぅー…」 その時、少し離れた窓際の椅子に座って刀の手入れをしていたがその手を休めて振り返った。 失意のどん底に堕ちたルークを見て笑みを堪えながら一言、 「買出しなら、代わってあげてもいいけど?」 「マジでっ!?」 一瞬眼を輝かせたルークの隣で、ティアが狼狽する。 「!悪いわ、この前当番だったばかりなのに…」 「いいの、刀の打粉が切れちゃったから、市場には行こうと思ってた所だし」 それに、と刀を鞘にしまいながら立ち上がった。 「ルークがせっかくやる気になってるんだから、 いつも以上に厳しく訓練つけてあげれば良いんじゃない?」 「そ、それはそうかもしれないけど…」 ティアはの含み笑いから、腹黒さが滲み出ている様な気がしてならない。 本人に言わせてみれば、仲間一の“謀略家”には到底敵わないらしいが。 愛刀を椅子に立てかけ、二人の元に歩み寄るとルークに掌を差し出した。 視線は、ルークの手の中の買出し表に注がれている。 「ホントに良いのか?」 「今度私が当番の時用事ができたら代わってもらうわw」 「分かった!ありがとな!」 買出し表を受け取り、は宿を後にした。 市場はいつも通り多くの商人や客達で賑わっている。 「占めて5500ガルドだよ」 は懐から財布を取り出した。 「はい、丁度です」 「ありがとさん、また来てくれな」 「よし、皆の装備品はこれでオッケーっと…」 重っ、と店主から大きな紙袋を受け取りながらが呻いた。 個々は軽くても全員分の装備品が集まるとなかなかの重量になる。 おまけに今回は久々に街に立ち寄ったため、消費アイテムの買い出しもまだ残されているのだ。 一度宿に荷物を置いた方が良いかもしれない、と巨大な紙袋で 前方の視界のほとんどを遮られながらもふらふら歩き出した、 その時だった。 ふと前方を横切ろうとした誰かに、紙袋ごとぶつかってしまった。 「ぁっ、す、すいません!………?」 バランスを崩して紙袋をひっくり返してしまうかと思ったが、 何故か恐れていた事態が訪れる気配は無い。 反対側から別の力によって支えられている様だ。 不審に思っていると、紙袋の向こうから声が聞こえた。 「相変わらず危なっかしいですねぇ、あなたは」 顔を見なくても笑っていると解るくらい穏やかで楽しそうな声だ。 この声を、は良く知っている。 「…!」 ばっと紙袋の横から覗くと、丁度向かいに立つ人物も同じ動作をしていた。 青い軍服、揺れる長い金髪と眼鏡のレンズ越しに佇む真っ赤な瞳。 「大佐!」 「紙袋が歩いているのかと思いましたよ」 「し、失礼なッ!…て、あ、ちょっと―」 ジェイドは涼しい顔での手からさっと荷物を奪い取ると、片腕で小脇に抱えた。 いつも通りの皮肉は言うものの、どうやら荷物を持ってくれるらしい。 「…案外重いですね」 と微笑みながら呟くジェイドをが半ば呆れた様に見上げる。 「全然重そうじゃないんですケド… …じゃなくて、ありがとうございます」 「いえいえwまだ買うものはありますか?」 「後は、食材とグミが…って、大佐、何か用事があったのでは?」 「マルクトの領事館に行っていたのですが、もう済みました。 …ではさっさと買出しを済ませてしまいましょう」 珍しく雲が掛かり始めた空を見上げて、ジェイドは眼鏡の位置を直した。 「おじさん、このグミはここに書いてある値段?」 「あぁ、そうだよ」 「ふーん、、キムラスカ側の市場の方が安いような… あっちで買おうかな」 中年のマルクト商人に困ったように微笑みかけるの横顔をジェイドはまじまじと興味深げに眺めた。 当のマルクト商人はキムラスカ側の市場に対するライバル心と商人魂を上手い事刺激されたらしく、 「本当かっ?!キムラスカに負けちゃいられねぇ、 姉ちゃん!特別に7割の値段で売ってやるよ!!」 「あら、ありがとうww」 咲いた勝利の微笑み。ジェイドの視線には全く気付いていないが。 その後も鮮やかな値切り技が炸裂し、買出し表はすぐに斜線で塗りつぶされた。 荷物を二人で分けて市場を歩きながら見事な値切りっぷりに感心したジェイドがのんびりと言う。 「…買い物上手ですねぇ」 かなりの重さがあるであろう荷物を抱えながらも、その顔に苦渋の色は少しも見受けられない。 体躯の差があれば、力の差もそれ程あるという事だろうか。 仕方ないとも思うが、は何となく情けなくなった。 腕の中の小さな荷物を抱えなおすと、小さく笑う。 「いえ、アニスの足元にも及びませんから」 「ははは、…それはそうと、今更ですが今日の買出し当番は ルークだったのでは…?」 「?あぁ、はい、そうですけど…代わってあげました。 超振動の訓練をしたいって、やる気満々だったので」 「あなたもお人好しですねぇ、甘やかすと調子に乗りますよ?」 「どうでしょう、それは彼次第だと思いますけどね…。 …それに、ルークに買い物を任せると金銭の減りが激しいので」 「それは言えてます」 「あの金銭感覚にはついていけないわ……ん…?」 突然頬に冷たいものが触れ、は自分の頬に手を当てる。 冷たいものの正体は、水の雫。 反射的に二人が見上げた空は、いつの間にか分厚い黒い雲に覆われていた。 辺りも、心なしか薄暗い。砂の地面に幾つも現れた黒い点々、これは――。 「雨…!?」 ジェイドが一瞬肩をすくめて苦笑いした。 「降ってきましたね、どこか屋根のある所まで走りましょう」 「あ、ハイ!」 降り始めた雨はあっという間に町中を濡らし、地面には水溜りを作っていく。 ここはマルクト側の市場だ。降り出したこの雨の中では キムラスカ側の宿に戻るには少し遠すぎる。 は持ち前の体力でしっかりジェイドの隣に追いつき、 辺りを見回しながら走った。 どこか、雨宿りできる所を探さなければ。 溝に降る雨-前編 end |