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公設秘書?対面編 ND2016・イフリートデーカンの、ある日の事。 「―おはようございます」 いつも通り一応マルクト帝国軍指定の女性用軍服を身に着け、職場に出勤する。勤務先は、本部中に地味一色と伝わる事務部署。同じ軍服を着ていても、戦闘の前線に立つ第一から第七までの師団とは比べ物にならない。軍全体の事務的な事柄を専門に扱う機関であり、そこに勤めているを含め、事務のエキスパート達の相棒は武器や音機関兵器ではなく、ペン、ハンコ、定規、のり、カッター、ホッチキスなどの文具。あと電球の交換等もお手のものだ。両腕に書類を抱えたある兵士(と言ってもいいものなのか微妙な所だが)がに挨拶の言葉を投げ掛けた。 「おはようございます、副署長」 両腕の書類を見て、の顔に苦笑いが浮かぶ。 「おはよ、…それ、予算案?期限明後日じゃなかったっけ…?」 「はい、そうなんですけど、軍事演習と師団長任命式典の関係で提出期限日が明日に早まったらしくて――」 「あ、そうなの?」 「総務からデスクに連絡が届いていると思います」 「すぐ確認するわ、ありがとう」 並ぶ机の間をすり抜けながら他の同志達とも挨拶を交わし、自分の机へ向かう。 今日もきっと、いや、今日は特に、机の上には未処理の書類が山済みに置かれているに違いない。と、予測したの目に、思わぬ光景が映った。 「…――署長?」 大柄な体躯に似合わぬ穏やかな雰囲気を纏った男。事務部署を取り仕切る署長がの声に振り返った。 「おぉ、副署長――」 「どうなされたんですか?」 振り返った顔にいつになく深刻な表情が浮かんでいる気がする。 何故だろうか。その疑問の答えを探しあぐねていたに、 その署長があるものを差し出した。それが、答えだった。 「実はな、唐突ではあるのだがこれをお前に…」 「……ぇ?………!!!!」 大きめの茶色の封筒に記されていたのは、異動命令通知書という文字。 封筒を受け取ったは、しばらくの間石像と化した。 異動?万年事務員だと思っていた自分が、異動…!? 「……冗談…ではない、ですよね」 やっと声を絞り出して確認するを、署長が哀れむような目で見下ろしている。 「あぁ、詳しい異動先についてはその封筒の中を見てくれ」 新年度が始まって間も無いというのに、こんな時期に異動命令が出るとは珍しい。しかも、 「…って、今すぐですか」 「とのお達しなのでな。」 「お達し…?わ、分かりました。」 「しかしまぁ、しっかりしていたお前が異動となると――皆仕事を溜めてしまいそうで俺は怖いよ」 山のような書類を必死に処理していく兵士達の顔色を伺うと、何処か申し訳ない気分になってしまう。 そして長い溜息をついたが、上官に丁寧に頭を下げて礼をする。 「いえいえ…私の様な万年事務員がここ以外のどこへやられるのやら不安ですが、 今までお世話に、なりました。残りの荷物は後日また取りに伺います」 「ああ、いつでも来ていいぞ」 荷物をまとめて一通り簡単な挨拶を済ませたが事務部署を後にしてすぐ、 別の事務員が尋ねた。 「署長」 「何だね」 「ウィロウズ副署長が何処へ移動になられたか、ご存じないのですか?」 問われた署長当人は苦笑いをその頑丈な面持ちに浮かべた。を憐れんでいる様にもとれる、苦笑いだ。 「知らないわけ無いだろう。向こうの師団長が直々に私の所へ交渉に来られたんだからな」 「師団長、と云う事は…では、副署長は師団へ異動に―――?」 「そうだ。しかも、何番目だと思う?帝国軍で実力、知名度共に一二を争う、 ――――第三師団だ」 まさか、と事務員は驚愕した。 「第三師団!?…あの大佐の所にですか?!」 流石に有名なのだろう、第三師団師団長と言えば師団に属していない者でも解かる。 その肩書き以上の実力を持つと称され、"死霊使い"の二つ名を持つ譜術士。 「先週の、帝都に魔物が侵入してきた事件の時事態の収拾に一役買ったとは聞いていたが…まさかこんな展開になるとはな」 自称万年事務員の女は、どうやらとんでもない人物に気に入られてしまったらしい、 と空になったの机を一瞥しながら事務部署署長は感嘆の溜息をついた。 一瞬立ち止まり、段ボール箱を抱えなおす動作を時折繰り返しながらは軍本部の廊下を歩き続けている。 やっと第三師団の区画まで辿り着いたがどこがに与えられた部屋なのか、分からない。そもそも師団の棟など 出入りし慣れていないので当たり前ではあるが。 片手で書類を封筒から取り出すと、部屋番号を確認する。 「一番奥の…右側のドア…っと、あ、あそこね―――」 部屋の前までたどり着くと、やけに周りの視線が気になるがとりあえず会釈し、 段ボール箱の角で開けかけたドアを背中で押して部屋の中へと足を踏み入れた。 に降り注いだ幾多の視線が、まるで異端なものを見るような視線だった気がするのは恐らく気のせいだ。 気のせいという事にしておこう、と自己完結したの視界に広く綺麗な部屋の景色が広がる。 「うわ、広い、しかもキレイ…って、」 部屋中が紙切れだらけの事務部署とは大違いだ。 白い壁に整頓された本棚、シンプルでお洒落な電灯、部屋に入って正面と、右側に机が一つずつ置かれている。 一方の机上には本やら書類が積まれているが、もう一方の机上には何も置かれていない。 どちらがの机なのかは考えるまでもなく、 「(二人部屋なんだ…。もう一人は誰なんだろう…)」 立て込んだ職場で働き続けていたにとって、 二人という少人数で仕事をするというのはかなり新鮮な感じのするものである。 これからは静かな環境で仕事に集中できるのかと思うと、突然の異動も悪くない、気がした。 どすん、と音を立てて重い段ボール箱を机上に置いた、と同時に背後の扉が開いた。 反射的に振り返り、は姿勢を正して敬礼した。 「!事務部署より、異動命令を受けて参りました。・と申します!! この度は―――――――――――ぁああッ!!??」 そこに立っていた人物を認識した瞬間、衝撃が走った。 流れるような美しい金色の長髪に、眼鏡の奥の深紅の瞳。そして。 が驚愕の余り発してしまった奇怪な絶叫を気にも留めず、その男は、微笑んでいる。 「ようこそ第三師団へ、補佐官。師団長のジェイド・カーティスです。 ―――頼りない師団長ですが、どうぞよろしくお願いします」 「――な…?!」 驚くのもその筈、事は先週起こった正体不明の魔物による帝都襲撃事件に遡る。 その混乱に包まれた市街地で、魔物相手にたまたま背中合わせに戦った人物と 再び会い見える事になろうとは。 対面編 end |