「…はい。西棟1階、第三師団の師団長室までお願いします。
 
 …えっと、まずサーモンが8貫、タマネギとマヨネーズ付きが別に6つ、
 それからチーズサーモンが4、後は、マグロ、タイ、タコ、いなり、
 ネギトロとキュウリの鉄火巻きを各2つずつ。
 はい…あ、生姜もお願いします。…?割り箸は二つで、はい。

 …30分、えぇ、構いません。
 それから、そちらは小切手での支払いはできますか?
 …あ、分かりました、お願いします。
 警備の者には内線番号22で繋ぐよう言ってください。
 それでは、よろしくお願いします。

 あっ、領収書、忘れないで下さいね!
 はい、そうです、いつもありがとうございます、では」




ガチャン。




タルタロスに備え付けられているものより大型の伝声機、
の受話器を定位置に戻したが一息つきながら振り返った。
目線は、ソファで寛いでいる上官の元に。
当の上官、ジェイド・カーティスは手に寿司屋のメニューを持ったまま薄い笑みを浮かべ、
の様子を眺めて沈黙している。
目が合った瞬間、は先の伝声機での対応の時より少し低め、つまりは地声で口を尖らせた。



「ちょっ…何です、その微笑みは」



にこりと笑顔が答える。
お疲れ様、と。











ナイト・ワーカー 夜勤編










空はすっかり宵闇。
海に面している軍部の棟の窓からは闇によって黒く染まった海と、
端に湾の反対側に位置しているマルクト市街地の夜景が見えた。
その夜景、夜のマルクト市街を守るのも、もちろん軍の大切な役目である。
軍では交代制で夜間の市内の警備を行っている。
夜でも起きる時になれば事件は起きる。
自分の家が分からなくなった酔っ払いを保護する時もあれば、
夜の人気の無さを狙ったならず者の強盗や通り魔を捜索したり種類は数知れず。
軍は24時間国民の安全を守るのが義務なのだ。

しかし、今日は本来ならば夜勤の日ではない。
それが何故今、この時間に彼らが執務室に残っているのかというと。
更には、何故寿司の出前を取っているのかというと・・・









『はい、代わりました。第三師団師団長執務室です。・・・え?』
『・・・どうしました?』
『あ・・・いえ・・・ 
 大佐、第四師団の今日の夜勤当番が任務途中の負傷により
 急に来れなくなってしまったそうで・・・』
『あぁ・・・代理ですか。第四師団というと・・今日は海上警備担当だった筈』
『最近海賊が頻出してますからね・・・運が悪いんだか良いんだか』
『ちょっと代わってください』
『あ、はい』

『カーティスです。任務ご苦労様でした。代理の件、お引き受けしましょう』
『(お、珍しい・・・)』
『ですが、急な要請でしたので私共夕食が無いのですよ。
 ・・・あ、よろしいですか?すみませんねぇ、では、よろしくww』

ガチャン。

『(・・・?)』

『はい、何でしょう』

席に戻り、机の引き出しを探るジェイドの顔にはいつもより深い笑みが浮かんでいる。
にこりと微笑むと立っていたを見、


『出前注文、お願いしますw』


ひらりと寿司屋のお品書きで口元を隠した。











きっかり30分後、伝声機からの呼び出しがあり、出前到着。
独特の酢飯の匂いが食欲をそそる。

テーブルの用意をしながらが尋ねた。

「大佐、この費用って・・・」
「もちろん第四師団持ちです」

「やっぱり・・・・・・」
「本来ならば無い筈の出費ですから。
 それに、向こうから持ってくれると言ってきたのですよ?
 甘えない訳にはいかないでしょうw」
怖い笑顔だ。

「相変らずお強いですねぇ・・」
「何のことでしょう?・・・さて、頂きましょう」
「頂きます」



皆が退勤して静かになった棟内に
パキン、と割り箸を割る新鮮な音が響く。






「っていうか改めて見たら、サーモン多っ・・」
「こんな所で好みが一致するとは、何とも奇遇です」




「美味しい〜」
「新鮮ですね・・・、醤油取ってください」
「あ、はいはい」




「やはりそのままのサーモンが一番でしょうw」
「えーそうですか?タマネギとマヨネーズ方も中々・・
 って大佐!"そんなものは邪道だ"とでも言いたげな顔ですね」
「いえいえ、そんな事・・・言ってませんよw」
「・・・(思ってるんだ・・・)」




、お茶を」
「はいはい・・・って大佐一人で醤油使いすぎです!」
「失敬な、あなただって生姜独り占めじゃないですか」
(お茶を淹れながら)「え?大佐・・生姜食べれるんですか」
「・・・あなた私を一体いくつだと・・・w」
「すみません冗談です」








「「ごちそうさまでした」」







お寿司談義も程々に、二人は寿司を完食し
は後片付け、ジェイドは領収書の処理をした。

お寿司なんて贅沢が久しぶりだったのでとても満足したのか、
はとてもご機嫌な様子だ。
このまま何事もなく平和な夜なら何もいう事は無いくらい。


「大佐、溜まった書類を消化する絶好のチャンスですよ。
 頑張りましょう!」
「まぁ、それくらい暇だと良いんですがね・・」







果たして、"何事"も無く一夜を終えられるのか。




マルクト帝国軍の長い夜が幕を開けようとしていた。













end