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純情アクエリアス 唸るような暑さ、突き刺す鋭い日射を如何せんと遮光カーテンを思い切り引っ張った。 引き際、階下のグランドを垣間見た。この暑い中動き回る運動部の連中には頭が下がる。 「(よくやるわ…真似したいとは思わないけど。)」 脱力感に任せて椅子に腰を預ける。 そして眩しいグランドはカーテンの向こうへ。 とはいっても窓が全開のため吹き抜ける風でカーテンは靡く。 それでも日射を遮ると随分違う。風自体は涼しいのでこれなら日が傾くまで我慢できそうだ。 机の端に置いたペットボトルの中のスポーツドリンクは残り半分程。 椅子に腰掛けた振動でゆらゆらと揺れていた液体もやがて静止し、 ボトルの周りはとっくに水滴で濡れて滴り落ちる雫が机に小さな水たまりを作っていた。 靡くカーテンを尻目に誰もいない教室を見渡した。暑さに無意識に溜め息が漏れた。 「」 「?!」 カランカランッ ペットボトルから外したキャップを思わず取り落としてしまった。 だがそれ以上に奇怪な出来事に見舞われ、は拾うのも忘れて固まった。 呼ばれた。誰もいないのに。でも、この声は。 「ここにいたんだ。駄目だよ、補習サボっちゃ」 窓の桟に掛かる白い掌。続いてふわっと遮光カーテンが不自然に内側に膨らんだかと思うと、その下から人間が現れた。 否、はその正体を知っている。 「―カヲル、君」 正確にいうと人の形をした、人にあらざるもの。らしい。 「暑いねぇ、あ、一口頂戴」 ひょいと桟を越えて教室に入り、の前の席の椅子に跨った。 その過程で、キャップの空いたペットボトルを手からさっと奪い、それを口に運ぶ。 は呆然とその様子を見ていたが、カヲルが床に転がったキャップを拾った所で我に還った。 「……!いや、いやいやいや渚カヲル君、今のおかしかったよね」 「何が?…ああ、今の間接キッスが?駄目だった?」 「いや、違…違くない!けど、いや、違う!違くないけど!」 「ふふ、どっち?」 「どっちも!!!!まず、窓から入ってきたわよね?ここは3階デス。」 「うん。ちょっと君を驚かせようと思ってさ」 「た、確かに驚いたけど!そこじゃなくて、重要なのはここが3階だってこと」 「3階は、窓から入っちゃ駄目なのかい?」 ペットボトルを口に運んだまま喋るので少し声が曇って聞こえる。 カヲルは椅子から少し腰を浮かせてカーテンの隙間からグランドを見下ろした。 「日本語がおかしいですよ、渚カヲル君。 普通3階の窓から入るとか無理だから。飛べるとかじゃないと無理だから。人間は飛べないから無理なのよ。わかる?」 「ああ、そういうことか」 「分かってくれて嬉しいわ」 「僕はリリンとは違うから問題ないよ。使徒だからね」 「…。リ、リリン?」 渚カヲルは知らない言葉をよく使う。 「人間の事だよ」 「カヲル君は自分が…リリンじゃないって周りに知られたらまずいんじゃないの?」 「そうだねぇ…まずいけど、今のは誰にも見られない様にやったから大丈夫さ」 「ああ、そうですか…」 もうなんかいいや。押し問答すら暑苦しい。 「大体が補習抜け出しちゃうからいけないんだよ。 トイレ行ってそのまま帰って来ないから、先生が誰か連れ戻して来いってさ」 「それで、カヲル君が指名された訳?それは災難だったわね。ごめんね。」 「いや、僕が自分で名乗り出た。外出たかったし、君の居場所は分かってたから」 「あ、そうなの」 居場所を知っていた訳はもはや問うまい。 というか外出たかったって、結局自分もサボりたいだけだったんじゃないか。 「まぁ、そうなるね」 「じゃぁ私のせいにしないで……ん?私、今言ってた?」 「言ってないけど、なんとなく、こう思ったかなって」 「…使徒って、心も読めるのね。すごいね」 「でも僕も暑いのは少し苦手かな」 「全然暑そうじゃないけど」 「君は暑そうだね」 「だって暑すぎるんだもの」 あんたが来たから、緊張して余計に暑くなったのよ。とは言えない。 決して嫌いじゃない事も、それ以上に包み隠している想いも含めて、読まれているのかも知れないが。 「ちょっと、全部飲まないでよ。私にも頂戴。ていうか私のだし」 「そうだっけ」 「ちょwww」 ペットボトルの中はもう少しで空になる。 机上の水たまりは乾ききるまで、靡く遮光カーテンと楽しげに話す二人を映し続けた。 end |