「渚君、渚君」





遠くで呼ぶ声が聞こえる。透き通る様な声。遠くなのに、はっきり聞こえる。



誰?



「―」





頬に当たる緩やかな風。背中にコンクリートの感触。





そういえば屋上にいたっけ。
ふっと瞼を持ち上げると、視界には青い空ではなく、










「―呼んだのは、君?」








目覚まし少女








「うん。…やっと、起きたね」



碧色の眼。
膝をついて覗き込んでいる少し大人びた少女の長い黒髪が風に揺らされて頬を撫でた。
カヲルは思わず少女の黒髪にそっと触れた。



「くすぐったいよ」
「あ、ごめんなさい」



身を引きながら少女が謝る。指の間を髪がするりと通り抜けた。



「あんまりにも起きないから…大丈夫かと思って」
「死んでるのかと思った?」
「無きにしもあらず、でしょ」
「ははっ、まぁそうかもね」



カヲルは寝転んだまま頭の下で手を組むと、少しだけ少女の方に頭を傾けた。碧色の眼と視線が合った。



「転入早々、大したものね」



少女が言う。



「君だってサボってるじゃないか」
「私は、あなたを起こしにきたの」
「…葛城先生?」



こくりと頷いた。



「あー…災難だったね、君も」
「そうでもないわ」
「ん?」
「授業中に校舎の中歩くのって、わくわくするから」



大人びた風貌からいたずらっ子の様な笑顔が零れると、不似合いかと思えばそうでもない。



「ふーん…ね、きみ、名前何て言うの」
「うん?私?私は、



というか、クラスメイトなのだが。まぁ転入してきてから話した事もないので分からなくても仕方ないか、と呟いた。



…覚えたよ、
「それは光栄だわ」



薄く微笑んだが空を仰ぐ。溜め息一つついた後、カヲルの隣に腰を下ろした。
ゆっくりと流れる雲を見上げたままが無言を保つ。まだ肌寒い時期ではあるが昼間の日の光に照らされてじんわりとした温かさが心地良い。




「何」
「本当に僕を連れ戻す気、ある?」
「んー…無きにしもあらず、かな」
「どっちだよ」
「だってあなた、起きる気ないでしょ」
「うん」



「だから、私はひなたぼっこしながら、待つことにしたわ」
「じゃぁ、次のチャイムがなるまで、眠ろうか」
「それは駄目。


…後、十分だけよ」





ケチ、とカヲルが笑った。





end