おはようは曲がり角にて




「電気、ガス、エアコン、全部切った、と…よし、行こう」





とんとんと爪先で床を軽く打ち、靴を履きながら人差し指に掛けてあるキーリングを引っ掛ける様にして取ると勢いよく玄関の扉を押し開けた。





快晴、冬の朝の澄んだ空気。



時計の針は八時五分、徒歩ならキツいが自転車がある。予鈴五分前到着を今日も守れそうだ。



鍵を外して漕ぎだした愛車から見る並木はすっかり冬の顔。緩やかな坂をノンブレーキで降り、突き抜ければ近道になる住宅街への曲がり角に差し掛かる。



ハンドルを捻ろうとした、その時。





「あ」





「っっ?!」





思わずハンドブレーキを両方、力一杯握った。金具とタイヤが擦れる音がして流れていた景色が急停止すると、前籠の中の鞄が大きく跳ねた。やばい、今ので久々に作った弁当がひっくり返ったかも。





「ちょっ…と!」





は曲がり角から唐突に姿を表したそいつを睨み付けた。ひかれそうになったというのに未だ微笑んでいる彼を。



「やぁ、おはよう、



眩しいというか爽やか笑顔で笑いかけるのは、学園では容姿端麗で有名な渚カヲル。クラスメイトだ。しかも、この前の席替えから席が隣だ。





「やぁ、おはよう…じゃないわ!急に出てこないでよ、ひいちゃうとこだったじゃない!!」
「でも、この通り平気だったし」
「結果論じゃなくて…」
「まぁ僕にしてみたらの方が急に出て来た感じなんだけどな。
ブレーキ掛けずにミラー付いてない角曲がろうとしてたでしょ、来てたのが僕じゃなくて車だったらどうなってたかな」
「う…それは、、、そう、だけど」





が言葉に詰まると、まぁ、別にいいんだけどね、とカヲルが笑った。駄目だ、こいつと話すとやっぱり何か調子が狂う。



「わ、悪かったわ。じゃぁ、もう行くから」



また後でね、と再び自転車を漕ぎ出しただったが…



「待って」
「う?!」





がくんと再び急停車する愛車。驚いて後ろを振り返ると自転車の後ろの荷物置きの端をカヲルが掴んでいた。





「悪いと思うなら、ちょっと僕のお願い聞いて欲しいな」
「な、何…?」





「乗せてくれない?」
「…はい?」
「自転車。遅刻しそうだから。…駄目かい?」
そういえば彼は徒歩だ。この時間にこの辺りにいて歩きでは多分間に合わない。



…ていうか、走ればいいんじゃね?



とは言えない。流石に後が怖いと思ったはほう、と小さく息をついた。ついた息が寒空に白く濁って消えていった。



「…いいわよ」
「本当?ありがと―」
「でも」
「でも?」



「…もちろん、貴方が漕いでくれるのよね?
てか、男の子なんだし、普通自分が漕ぐからとか言わない?」
横目で微笑みかけると、カヲルは虚をつかれたような顔をしたがそれも一瞬だった。



「…それもそうだね。仕方ないなぁ、君に免じて僕が漕いであげるよ」
「ふふ、ありがとう」





前籠にもう一つ荷物が乗っかった。









end