|
大和撫子 カランコロン、カラン、コロン 人工的な白で塗装された真っ直ぐな通路に不似合いな音が響く。後になってから僕はその音が下駄、と云う日本古来から伝わるらしい履き物によるものであると知った。教えてもらった。 まぁ、それに対する僕の見解は知る前も後も変わらなかったけれど。 「歩きにくそうだね、その靴。音が煩いし」 通路が交わる交差点を通り過ぎようとした彼女にそんな風に声をかけると、彼女はふわっとこちらを振り返った。 真っ黒な瞳、髪。光を受けている所だけほんの少し茶色がかっている。そして身に纏う赤みがかった橙。振り返った拍子に結い上げられた髪が緩やかに跳ねた。 「そんな事もないかな。煩いは余計」 高すぎず、幼さの中に深みのある声。笑いかけるのは口元だけで目元は怪訝な色をしている。警戒しているのだろうか。 「そう。まぁ動きづらさを指摘するなら、靴よりも服装を指した方が的確だっただろうね」 変わった服だね。何これ、どうなってるの?苦しくない? 後ろで結んである堅い布の結び目を触ろうとすると彼女に駄目、と手を退けられてしまった。 「着物はこういうものよ、帯が解けるから触らないで頂戴な。どうせ、元には戻せないでしょ、貴方」 「着物…っていうんだ、その服。へぇ。リリンの文化は奥が深いなぁ」 「リリン?」 「人間のことだよ」 「?そう」 掴まれた手、掴んできた掌は生暖かかった。白く細い指の先には綺麗な形に整えられた爪。じっと魅入っているとぱっと掌が離れた。 「ねぇ貴方。貴方はネルフの人?」 黒い瞳が少し困った様子で僕を見上げていた。僕はいつも通り笑った。 「僕は貴方じゃない、僕はカヲル。渚カヲル」 「…渚カヲル君、はネルフの人?」 「そうだね。そうなるね」 「じゃぁ、本部までの道を教えてくれない?呼びつけておいて、あの人、迎えも寄越さないなんて。放置もいいところよ」 「あの人?」 「碇…司令、と此処では呼ばれているのかしら」 ああ、シンジ君の父親か。 「そう。じゃぁ本部まで僕が案内してあげるよ。僕も行くところだったから」 歩き出した僕の後を、彼女はついて歩き出した。動きづらそうに、少し小走りになりながら。 「あら、優しいのね、渚カヲル君」 「フルネームじゃなくてもいいよ…。…」 ここまできて、今更過ぎる疑問に僕は辿り着いた。 「ねえ、君は?君は、誰?」 「私?私は、。、」 「、…」 、…。 声に出さず、僕はもう一度口ずさんだ。歌うように。 彼女も、恐らくシナリオのどこかに書かれているのだろうが 流石に全部暗記している訳ではないので今は思い当たる所が思いつかない。 後で老人達にでも聞いてみようか。まぁ、そもそも呼んだのがシンジ君の父親なら老人達も知らないのかも知れないけど。 「…。は、何しにネルフに来たの?」 「急に呼ばれたから、知らないわ」 「ふーん。君もチルドレンなら、僕と同じだね」 「チルドレン?」 「エヴァに乗る子達の事」 「…そうなの」 不釣り合いな足音と、噛み合わない会話と。 僕と彼女の出会いは、なんとも適当で、唐突で、いい加減だった。 end |