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「(そういえば今日、日直だったっけ…)」 朝、ニュース番組の締めくくりの星座占いを歯磨きをしながら見ていたはふとその事を思い出した。 星占いは見た時に限って良くないのはいつもの事。 「(やだな、面倒くさい)」 気のせいであればいいと淡い期待で鞄の中を覗くと無情にも昨日葛城先生からフライングで渡されてしまった日誌が垣間見えた。 日直は二人一組、相棒は偶然にも、というか的に、不運にも、 『明日の日直はさんと渚君よ!さん、渚君がサボらない様にしっかり見張ってて頂戴ね!』 『は、はい』 『失礼だな、僕はサボらないよ』 『それならまず、ちゃんと授業に出てから言ってみなさい』 『あはw』 そういえばそんなやりとりがあった。男女の比率が均等でないから少しずつずれていってしまうのだ。 「(うーん、まぁ期待はしないかな)」 彼が仕事をこなす事について。 何せふらっと気まぐれに屋上などに消えていってしまうような奴だ。仕事を無理強いするのも面倒くさいのでその時は自分で やるしかないだろう。 洗面台で口を濯ぎ終えたから溜め息が一つ。配布物が少なければいいな、そんな事を考えている内に用意が済んだので、さっさと家を出た。 憂鬱な日直日誌 「おはようございます、葛城先生」 職員室。日直の仕事その壱、朝の配布物、返却物回収。ただ、今朝は幸運にもないようだ。 諸連絡を聞きに来たを見てミサトが溜め息をついた。 「やっぱりさんがきたか…ちゃんと渚君にも仕事させなきゃ駄目よ!甘やかしは禁物!」 「善処します。…でも先生、声掛けるより自分でやった方が早いんです」 「それでも日直は二人でやる事に決まっているのだから、何とか渚君を手懐けて二人で協力して欲しいのよ。日誌の反省の所、彼にも書かせてね♪」 「はあ」 来たばかりなのにもう帰りたくなってしまった。 鳴り響くチャイムは授業終了の合図。 「起立!礼!」 教室が生徒達の声で騒がしくなる。日直の仕事その弐、授業が終わる度に黒板消し。 キョロキョロと教室の後ろの方を見回すが渚カヲルの姿は見当たらない。 「(予想通りかな)」 と黒板の方を振り返ると、そこに後ろ姿。 「?あれ…」 銀髪はクラスに一人しかいない。珍しい事もあるもんだとは少し笑った。黒板の文字を丁寧に消しているその生徒の背にそっと歩み寄ると。 「渚君、制服がチョークの粉で真っ白」 振り返る紅い瞳。 「え…あ、本当だ。」 「後私がやるから、払いなよ」 「ありがとう」 「一限サボらなかったの、珍しくない?」 受け取った黒板消しで残りの文字を消しながら声を掛けると、渚カヲルもチョークの粉を払いながら穏やかに答えた。 「今日はサボらない…いや、今日もサボらないよ。今日は特に、と日直だから」 「あらー、嬉しいこと言ってくれるのね、渚君」 「本当だよ?」 「ん。じゃぁ仕事一杯手伝ってね」 意外にも素直に頷いたカヲルに、は内心驚いた。いつもの傍若無人っぷりはどこへやら。今日は快晴なのに、雨でも降らせるつもりなのか。 「起立!礼!着席」 同じ挨拶なのにカヲルの場合、無条件に醸し出される優雅な雰囲気のせいでクラスの女子達が色めき立つ。挨拶の掛け声をする事自体が珍しい、寧ろ転入以来初めてではないかという位なので尚更だ。 「(ちゃんと仕事させてるじゃない。偉いわ、さん!しかも授業にもちゃんと出席させるなんて!)」 「(はあ…まぁ私大した事言ってないんで、今日の彼、機嫌が良いからかと)」 「(そうなの、へぇ〜、あの渚カヲル君がねぇ…)」 教科担任のミサトと目配せしながらは自分の教科書をめくった。 「、次移動教室だよね?」 「ん?あ、そうそう。教室の戸締まりしなきゃ」 日直の仕事其の三、教室の施錠。 二人以外誰も居なくなった教室の窓の鍵を端から施錠していると、戻ってくる足音が一つ。ガラッと扉が開かれた音にがその方を振り返った。 「良かった!まだ開いてた」 「シンジ君、忘れ物かい?」 忙しなく教室に駆け込んで来たのは碇シンジ。普段から親しくしている気の置けない友達だ。 「うん、先週の実験のプリント…あった!それにしても、カヲル君が日直の仕事ちゃんとしてるのって…何か意外だなぁ」 「でしょ、私もまるで期待してなかったんだけどね」 教室を施錠し、廊下を歩き出した三人を他の移動教室の生徒達が小走りで追い抜いていく。棟が違うクラスは移動にも時間が掛かるのだ。 「二人共酷いなぁ…僕だってやらなきゃいけない時はちゃんとやるさ」 「まぁ普段サボってる分、良い行いすると際立つのは確かだけどね」 そう呟いてカヲルを一瞥すると視線がぶつかった。評価してくれるの?と言わんばかりににこりと微笑み掛けられ、慌てて目を逸らす。端正な面持ちはこれだから困るのだ。 今日は体育の授業もなく、移動教室も一科目のみだったので比較的楽な日だったと言える。昼を過ぎ、日直の仕事も後僅かとなった。 日直の仕事其の四、終礼前の配布物回収。先日提出のあった問題集が返却されていた。 「よっ…と、、よし、これぐらいなら一人で運べる」 両腕で問題集を抱え、教室に戻ろうと振り返った。すると目の前に、 「」 渚カヲルが立っていた。気配なんて微塵も感じなかった。消したのか。そんな器用な事もできるのか、ウチのクラスの秀才は。 「っ!!!?」 問題集を危うく廊下にぶちまける所であったがカヲルが上手く支えてくれたのでその惨事は免れた。 「危ないよ」 「いや、急にいたから、びっくりして…うぅ、ごめん」 「僕こそ驚かせてごめんね、全然気付いてなかったから、つい…wさ、半分持つから、行こう?」 「もう…」 つくづく心臓に悪い。だが、朝に感じていた憂鬱さはなくなっていた。帰りたくもなくなっていた。 横を歩くカヲルの横顔を、はまた一瞥した。 「他に何か連絡のある委員はいる?…いないわね、じゃぁ今日はここまで!みんな気を付けて帰ってね!!」 「起立、礼!」 最後を締めたのも渚カヲルだった。 生徒が帰っていき、徐々に静かになる教室。机に広げた日誌の空欄を埋めていくと、黒板の日付を書き換えるカヲルを交互に見、ミサトも満足げに教室を去っていった。 「じゃ、後はよろしくね!二人共」 「「はい」」 皆が帰った後の静かな教室には、二人の話声と日誌を綴るペンの音、カーテンが靡く音が響く。カリカリとシャープペンシルの音が止んだかと思うとから達成感溢れる溜め息が漏れた。 「よし!後は渚君が書くだけ!!はいこれ!さっさと書いて帰りましょ」 「僕も書かなきゃいけないの?」 窓際にいたカヲルが呼び掛けに応じて歩み寄り、の前の席に座った。日誌を覗き込んで心底面倒くさそうな顔で見上げられたが今度は呆れた様に短く溜め息をつく。 「反省と感想の所だけよ、他の所は埋めたから、その位我慢して」 「分かったよ…んー、何て書けばいいのかな?『今日は仕事が少なくて楽でしたが、意外な事があって驚かされました』って」 「ちょっ!人のやつ朗読しないでよ!!何でもいいから、平和だったとか疲れたとか、感じた事なんでも書けばいいんじゃないの」 のペンを指先で弄びながら、しばらく唸っていたカヲルが、首を傾げながら言った。 「意外な事って何?」 「渚カヲル君が日直の仕事を真面目に手伝ってくれた事、かな」 「…それだけ?」 「…あとは…特にないかな」 「あ、そう…」 あとは、渚カヲルがそんなに苦手でもない事が分かって良かった。 などとは決して言えない。だが、 「(………ん?私、今、)」 "良かった"…? 何で、"良かった"…? 「、書けたよ」 自問自答していたをカヲルの一言が現実に引き戻す。 「…あ、書けた?お疲れ様、どれどれ…『日直の仕事もなかなか悪くない』…じゃぁ、今度もちゃんと仕事しなさいよ」 「するよ。…限定でね」 「それじゃ意味ないでしょ!大体そんな思わせぶりな事ばっか言って―」 ふわっと頬に人肌の感触を受け、の言葉がせき止められた。カヲルの掌だった。 「僕は、本気なんだけどな」 深い深い紅い瞳に魅入られ、息をすることさえ忘れそうになる。 「なっ…」 少しの間、教室の音が消え失せた様に静かになった。 「まぁ、今日の所は少しでも信用してもらえたのが分かったし、満足かな」 すっと手を引っ込めると日誌を閉じ、カヲルは窓を閉め始めた。放心していたが我に帰り、慌てて立ち上がった頃には施錠は全部済んでいた。 「、どうしたの?顔が赤いけど」 「べ、別に、そんな事ないわ!!…窓閉めてくれてありがと」 「そう?じゃ、帰ろうか」 日直の仕事其の伍、日誌。そして其の六、戸締まりで一日の日直の勤めは終わる。ガチャリと教室の鍵を閉め、職員室へ日誌を返しに行く。 その道中、 「…カヲル君」 その呼び掛けに一瞬カヲルが目を見張ったのだが、呼んだ本人は惜しいことに見逃してしまった様だ。 「何?」 「覚えてなさいよ」 不服そうな声に、 うん、とカヲルは微笑んだ。 end |