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橙の向こうへ 「大好きだよ。だから、最期だから、笑って?」 笑えば、"最期"を変えられた? 「人でもないくせに、人の言葉を遺して、、一体どういうつもりで」 貴方は。 「何故いなくなってしまったの」 見知った命が散りゆく様をいくつも見送って、その足は最下の白い床に乗る。 音の無い世界に脳裏の遺言だけが響いている。 「リリンは不思議な生き物だね。でも、僕は好きだよ。特に」 君は。 「生きるんだ」 白い巨人の在った壁の、袂に広がる橙の海。見下ろす瞳は、既に色を映していない。 足元は水たまりを越えてきた訳でもないのに、その後ろには橙に濡れた足跡が追って来ていた。 終わりがすぐ傍まで来ている。 貴方が先に行った、終わりが。 みんな一つになれば苦しくないって言ったのも貴方だったのに、 何故生きろだなんて。 独りでいろだなんて。 ―どうすべきかとどうしたいかは違うんだね。 補完のためにも、苦しみから解放されるためにもみんな一つになるべきとは解ってるさ。 だけど君には、君という個を保って欲しいと望みたい。おかしいよね。 ―別におかしくないわよ。それが人間なんじゃないの ―僕はリリンじゃないよ? ―形はどうであれ、中身の問題でしょ 感情という矛盾を抱える事がリリンの証拠だとしたら、その矛盾を知った彼は 「貴方は、リリンになった…なりたかったの?」 答えは得られない。 得られなくてもいい。 見えなくても分かる。 ここが、貴方の。 「手向ける華なんて無いわよ。悼んでなんてないもの。」 だって、もうすぐそっちへ行くから。 「貴方の望みも今は叶えられそうにない。笑えそうにない。ごめん」 でも、解ってよ、カヲル 立ち尽くす体を徐々に橙が染め上げる。 指先から滴り落ちた橙の液体が白い床に模様を描いた。 足が無くなる前にと橙の海に一歩踏み込み、膝の下から自分が溶け出す感覚、 失われていく感覚に心を委ねて静かに瞼を下ろした。 動ける内に此処まで辿り着けて、良かった。 貴方の、墓標に。 名を呼ぶ声とあの静かで温かな笑顔がぼやけた脳裏に浮かぶ。 もう一度その声で呼んで、その笑顔で魅了して欲しい。 この橙の向こうで、もう一度逢える? そうしたら、笑ってあげられる じゃなきゃ、 「貴方が笑わない世界で、私が笑える筈ないでしょ…」 頬を伝い落ちた、最早流れ出した体と見分けの付かない橙の、涙。 体裁を保てなくなった細い体は呆気なく橙の海に崩れ落ちた。 「ほら、、笑って?」 end |