惰眠と気まぐれ










「ああ…疲れた」



学校での体育大会の準備(委員なので居残りだった)を済ませ、 まだ本番も迎えていないというのに筋肉痛に蝕まれた足を圧して家に帰ってきた。 かと思えば疲れきったを意味不明なハプニングが出迎える。





「あれ…開いてる?何で?」



玄関が開いている。家を出る時はちゃんと戸締まりした筈だ。



ま、まさか…泥棒?



使徒相手には有り得ない程挑戦的になる割に、意外とこういった静々とした恐怖には弱かったりする。 ゴクリと唾を飲み、家の中に一歩踏み込んだ。静まり返った部屋は、 一見いつもと変わらない様子。特に荒らされている形跡も無い。 部屋を見渡したはピンときた。



「(これは…もしかしなくても)」
恐怖が一気に退いていく。



通学鞄を床に置いてずかずかと部屋の奥のベッドへと歩むと、 明らかに膨らんでいる羽毛掛け布団の端を掴み、容赦なく布団を捲る。





ばさっ





「カヲル!」





一気にの眉間に皺が刻まれる。
原因は、予想を裏切らない銀髪と男のくせに綺麗すぎる寝顔が捲った布団の下から現れたからだ。 鍵は多分、口八丁でミサトからスペアを借りたに違いない。



そして、急に西日に照らされたせいで、硬く閉じられていた瞼がぴくりと動いた。





「…んー…?…あ…おかえり、



「…おかえり、じゃないわよ。あんた!!余程不法侵入で捕まりたいようね!」



「……」



眠そうな紅い眼は畳み掛ける言葉を全て受け流し、ただただの緑眼を見上げていた。 が、次の瞬間、の細腕が突如布団から出てきた掌に囚われた。



「え」
「ん〜…じゃ、も一緒に、寝よ?」
「はい!?ちょっ、カヲル、引っ張るな…って、わっ!」



寝呆けていたって男の子は男の子なのは当たり前で。腕を掴まれれば最後、為す術もなく布団の中に引きずり込まれる。



「寝るって、あんたと違って私はこれからやる事あるんだから!晩御飯の用意、洗濯、明日の用意とか!」
「そんなの、後回しでいいよ」
「良くねぇ!」



逃れようと足掻くが抱き込まれてしまったので身動きが取れない。細いくせに意外と力は強い。 悪びれもなく心地良さそうに頬を寄せてくるカヲルに、やがては毒気を抜かれた様に大人しくならざるを得なかった。



「もう…じゃぁ家事とか、手伝ってよね」
「ん、手伝う手伝う」
「明らかに嘘っぽい返事…て、眠いなら自分の部屋に帰って好きなだけ眠ればいいじゃない。 先帰っちゃう位眠かったんでしょ」
ほんの少しだけが口を尖らせて呟く。



が委員で居残りの時も帰路を共にしたいと門前や教室で待っていたカヲルが、 今日はあっさりと、しかも何も言わずに帰っていった。 珍しい事もあるもんだと思い、しかし一方で、 もしかしたらどこかで待ってくれているかも知れないと気になるのが本音であった。
という事は無い。断じて無い。多分。





「だって、ここ、居心地が良くって」
目を閉じたままご機嫌のカヲルが答える。



いい感じに散らかってての気配がある。布団に潜ればのいいにおいがする。 ほっとする。こんな事を言うとまた嫌みだとかセクハラとか言われるから黙っとくけど。



「人んちを自分の家みたく言うのね」
「待ってたら絶対、が帰ってくるしね」
「そりゃ、私の家ですから当たり前!全く…」



それでも、悪い気はしてない。 言わないけど。住み込まれちゃたまらんわ。とはため息をつくと、 どうでも良くなりつつあったプライドをそっちのけて抱き寄せてくるカヲルの腕にその身を任せ、彼の細い体に腕を回した。 カヲルは少し驚いていた。



「あれ、今日はえらく素直だね。もしかして、欲し…」
痛い視線を感じて目線を滑らせるとが眉間に皺を寄せてカヲルを睨み付けていた。



「何か、言った?」
「…何も、言ってない、よ」
「今度言ったら家から叩き出すわよ…」
「(赤くなっちゃって…可愛いなぁ)」

「…暖かいから、湯たんぽ代わりよ。カヲルは細くて色白で体温低そうだけど、こうしてると暖かいなって分かるの」
「光栄な言葉だね。僕にしたら、の方が暖かいけど。女の子は体脂肪が多いからね」
「失礼なやつ…って、こらこらこらー」



背に回っていた筈なのに布団の中で目立たぬからといって凶行に走り始めた掌をの手が諌める様に掴んだ。


「えー」
「えー、じゃない。どこ触ってるのかな、渚カヲル君」
掴まれても尚スカートの中を弄る掌に、は眉を潜める。


「だって、好きなんだ。君の太腿」
「どうしよう。変態以外に当てはまる形容詞が思いつかない」
「有難い褒め言葉だ」
「(…こいつ)」



だが、緩やかな時間の流れと西日の暖かさで、いい感じににも眠気がやってくる。 ちらりと見上げればカヲルはそのまま緩やかに瞼を降ろし眠りに身を委ねようとしている様だ。



「(もう、いっか)」
自分ばかり振り回されて、馬鹿みたいだ。


巻きつけた腕に少しだけ力を込めて、もそのまま目を閉じる。 眠ってやる。こいつ以上に充実した睡眠を満喫してやる。



そうして次に目覚めたはたった一人で山のように残された家事に挑む事になる。



































end