教科書忘れにご用心










「ねぇ、さん、教科書忘れちゃった。見せてくれない?」
「また?もう、仕方ないわね」





始業のチャイムに机の足が床を擦る音が紛れる。 それでも後ろの方から聞こえてくる女子の騒ぎ立てる声には内心眉を潜めた。 いかにも申し訳なさそうに微笑み掛けてくる学年一の美男子と称されるこの男は、 自身のちょっとした過失をフォローする為に私が負っている危険の程等きっと理解していない。
女とは恐ろしく単純な生き物なのだ。だからこそ、頼られて悪い気もしないのも悔しい所。





「いつもありがとう」
「その代わり、当てられたら答え教えてよね」
「正解かどうか確証はないけど、それでもよければ」





間違っていた事などないくせに。

顔も良ければ頭もいい、更には字も美しい。こういう完璧という文字が似合うやつは大抵、 経験から判断するにロクなやつしかいない。 それなのに顔が良いから許されるなんて、世の中はなんて不平等に作られているのだろう。





「じゃ、この問3を…さん!」
「あ…はい…」

やばい、というかやはり、わからない。
ちらりと横を見下ろすと渚カヲルと目が合った。 そして視線を外した彼がノートに読みやすいように斜めにペンを滑らせる。 こうして助けられる事で、また一つ馬鹿になっていく。





「答えは、」





一瞬教卓を見、手元を確認するフリをして斜め右を垣間見た。ノートには、





「…………?!」





満面の笑みを浮かべるカヲルから反射的に顔を背けた。





さん?」
「えっと…すみません、わ、分かりません」
「あらーちゃんと予習しなきゃだめでしょ、まいいわ、じゃ、居眠りしてる碇君」
「…っえっ、は、はい!」










授業終了直後、机を元に戻そうともしないカヲルを、 その事に対して突っ込む余裕も無いが睥睨して呟いた。



「ちょっと…渚君」
「あはw」
「…」
「そんなに怒らないで、嘘じゃないんだから、ね?」
「そ…いう問題じゃない!!!」



頬を染めたの怒号が飛ぶ。
やっぱり、完璧の文字が似合うやつにロクなやつはいない。と思いたい。
彼がノート書いたのは問いの答えなどではなく、そしての動揺を誘うには十分なものであった。




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end




















「…机!さっさと戻しなさいよ!!」
「次の科目も教科書忘れちゃったんだ…次は見せてもらえないのかな?」
「はァ!!??…ああもう、勝手にすれば」
「ありがとw」