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『高杉くーん』 『断る』 『酷い!まだ何も言ってないのに!!』 『うるせぇ、ロクな事じゃねぇのは分ってんだよ』 『そんな事言わずにさ、先生会議で時間無いの! この本、返却期限今日までだから帰り際でいいからさ、お願いね!!』 『あ、おい!!ちょっと!!』 担任の不躾な頼み事に普段なら無視を決め込むところだが、 今日はなけなしの良心が働いた。あくまでも、きまぐれで。 図書館日和 図書室に来るなんていつぶりだろうか。 多分、入学直後の校内案内以来だ。 校舎の角を曲がり、突き当たりの扉を開くと 雰囲気静かな空間が高杉を迎え入れた。 入り口から少し入った所にあるカウンターに歩み寄り、 担任から預かった本を係の図書委員に手渡すと 何気なく図書室内を見回す。 放課後の図書室は授業終了後に立ち寄る生徒達で少しだけ賑わっている。 といってもここは本を読む所なので騒いだりする生徒達はいない。 「(ウチのクラスとは対照的な静けさだな)」 もちろん、周りは本、本、本。本だらけ。 あまり本を嗜む習慣の無い高杉には生徒達が何が面白くてここへ毎日通うのか 理解できそうにもないが。 「返却、ありがとうございました」 確認が終わった合図に、高杉は足早に立ち去ろうとした。 居心地が悪い気はしないが、かといって居る理由も無い。用事は済んだのだ。 帰るつもりだった。 一瞬、何気なく目を向けた図書室の奥に、その背を見つけるまでは。 「(…―――あれは・・・)」 見覚えのある後姿。 静かに奥まで歩んで行き、無心で声を掛けると。 「・・・・・・?」 「?…あ、高杉君」 その背が振り返り、声の主は高杉の姿を見るなり驚いた表情をした。 肩口より長い艶やかな黒髪が 夕日に変わりつつある太陽に照らされ鈍く輝いている。 端整な顔立ちをした彼女の名は、。3年Z組のメンバーの一人だ。 「(…しまった)」 内心、高杉は墓穴を掘った気分になる。 声を掛けたものの用があった訳でもなく、話すことが無い。 と、その時、予想外にもの方が声を上げた。 「高杉君も本、読むんだね…ってこんな言い方じゃ失礼か、ごめんね」 無邪気な微笑みを浮かべたの腕には その笑みとは対照的に小難しい本が十数冊抱えられている。 「…まぁ、人並みにはな」 適当に取り繕うと高杉はの腕に抱えられた本に目をやり、続けた。 「それ、全部読んだのか」 「ん?あぁこれ?これは返却の分」 が図書委員だったとは、初耳だ。 そういえば、クラス替えの後の委員決めはサボった様な、と高杉は記憶を辿る。 一瞬寡黙になった高杉を他所に は上から順に本を棚に戻す作業を始めており、背を向けたまま一言付け足した。 「ま、半分私の分なんだけどね」 「…本の虫だな」 その言葉に棚と向き合っていたが振り返る。 「それ、褒めてるの?」 「さぁな」 なによそれ、とくすくすと笑みを溢したにつられて、高杉の表情も思わず緩んだ。 「高杉君はどんな本読むのかなぁ?・・・・・・・む・・・」 会話を交えて本を戻す作業を再開して直ぐ、一番上の棚が定位置の本が姿を現した。 背伸びをするが小柄なにはギリギリ届かない。 脚立もあるにはあるが、如何せん、面倒くさい。 のでいつも頑張ってしまう所だが。 「俺は・・・・・・・・。・・・・って、お前・・・」 その様を見ていた高杉が思わず動いた。 「何?・・・―あっ・・?!」 直ぐ後ろには、高杉の気配。 伸ばしきっていたの手にあった本が 後ろから伸びてきた大きな手にひょいと奪われ、 そしてそのまま棚の定位置に戻される。 よりも遥かに背の高い彼にとっては本を元の場所に戻すなど容易い事だった。 「痩せ我慢はやめときな・・・面白すぎるから」 「は!?酷い、私は必死なのに・・・!ちょっと背が高いからって・・・・・・」 吹き出したいのを堪えながら言った高杉の言葉に はばっと振り返って反論を試みた。 が、すぐにその勢いは削がれてしまう。 振り返った先の彼との距離が思ったよりも近すぎた様だ。 「?・・・どうした?」 至近距離で視線を合わせていられなくなったがさっと目を逸らし、 観念した様に呟いた。 「・・・・・・・。・・・・ありがと」 はっと高杉の思考が止まる。 の顔が赤く染まってみえるのは、多分、夕日のせいだ。 夕日の―――― 「・・・―――」 、と 思わず言葉に乗せそうになった。 と、 「・・・じゃ、そのついでに半分お願いね!!高杉君!」 「・・は?」 ぱっとの態度が一変し、高杉の腕に本の山の半分を預け(押し付け)ると からかう様な元の無邪気な笑みが返り咲く。 「高い所に戻さなきゃいけない本はお願いするわね、お手の物、でしょ?」 「・・・・・・仕方ねぇな」 今日だけだぞ、と高杉は渋々、その反面不敵な笑みを浮かべ 本の山を受け取った。 一歩前進、といった所か。 十数分後。 棚に戻そうとした最後の一冊を手に、しばらく黙り込んでいた高杉だったが。 「なぁ」 「ん?終わった?」 「あぁ。・・・後、これ、借りてっていいか」 初めて見る表紙。本当に偶然、最後に残った一冊だ。 何か借りれば、また此処に来る理由が出来るから、と。 ただ、そう思ったから。 「ん?あ、それ・・・!高杉君も、このシリーズ好きなの?」 「…まぁ」 「私も好きなんだぁ、良いよね、これ」 また感想聞かせてね、とは笑った。 気まぐれが大いに功を奏した、そんな図書館日和。 end |