銀魂高校、通称銀校の夏休みも残り一週間となった。
心ゆくまで遊ぶつもりだったのに、現実はというと・・・







「この三行目の表現から、この主語にあたる人物の内心が読み取れる。
ここでのfearは"気遣う"と訳して良い。
SとVに注目し、さて、最後の一問を・・・・よし、

「・・・・・・・・」


残暑により噎せ返るような暑さの教室に
時折吹き抜ける風が唯一の救いだ。

は僅かにタオルで襟元を扇いでいたその手をピタリと止め
恨めしげな眼で英語担任、松平片栗粉を一瞥した。









補習後の過ごし方









「・・・―――と、主語himに当たる人物はルーク、上の行から訳するに、
ルークの行動はティアの内心を気遣ってのものだったといえます。」
「よし、良いだろう。今日は此処まで。帰って予習復習を怠らないようにな。
二学期の英語は更にペース上げてくからなァ。」


「「「はーい」」」


「あ、オイ、
教室から出かけた松平がばっと振り返り、に声をかける。
「は、はい」
「そこの熟睡してるヤツに、
今日やったとこの単語練習十ページやっとくように言っといてくれ」

の隣の席には、今だ補修が終わったことにも気付かず伏せっている男子生徒の姿が。
その後頭部を苦笑いで見つめ、は呆れた声で返事を返した。

「・・・了解ッス」



















「・・・君・・・高杉君ってば!いい加減おきなさい」
「・・・・・・・。・・・終わったのか」
「とっくの昔にね」
「・・・・・」

教室には既に二人以外には誰の姿も無い。
時計の針は一時を指していた。
窓の外に見えるグラウンドでは午後の部活動が始まっていた。
高杉は背伸びをし、誰もいない教室をぐるりと一周見回した後、
傍に立っていたを見上げる。

眼を合わせた瞬間。

「・・・ぷ」
ぱっと眼を逸らし、は笑みを堪えた。

「何だァ、人の顔見ていきなり笑うなんて」

「いや・・・高杉君、寝てる時に敷いてたんだね・・・顔に・・・腕時計の跡が・・・っ」

「・・・・・・・・」

はっと自分の頬に触れてみると、
確かに指先に何かの跡らしきものの手触りがあった。
これは恥ずかしい。しかも、


「鏡あるよ?確認してみる?・・くっ、あははは」

「いらねー」

に見られた。




「それがなくなるまで、帰れないね」
「お前、今日、部活はないのか」
「ん。今日は休み〜」

あ、そういえば高杉君、松平先生から特別課題出されてたよ。

高杉の席の隣の机の上にガタン、と僅かに音を立てて腰掛けながら
楽しげに言ったの言葉に、高杉は再び顔をしかめた。

「・・冗談か?」
「ううんw今日やったとこの単語練習十ページだって」
「・・・・・・ちっ」

といっても、今日も初めから終わりまで寝てたので
今日の分が何処までなのかがまず分からないのだが。

夏休み前半の補習の方がまだ真面目に受けていた気がする。
しかし後半に入ってからはからっきし駄目だ。
夏バテなのか、はたまた別の何かのせいなのか。
とりあえず原因は不明だが、この集中力の無さには自分でも感服する位である。





「高杉君」
「あぁ?」
「何で補修取ったの?」
最近殆ど寝てるかサボってるかだよねぇ。

宙に浮いた足をぶらぶらさせながらからかう様にが呟いた。

「それは・・・」

本当の理由など言えない。



「てか、お前、俺が補修に来るのが嫌なのか」
「あ、ううん。そういうつもりで言ったんじゃないって」
「・・・じゃぁ」
「いや、さ、高杉君、やる気はあるみたいなのは分かるんだけど、
 体が付いていってないみたいだから・・・大丈夫かなぁって」

そう、ちょっと思っただけ。


時計の跡、消えてきたね。とは少し申し訳なさそうに笑った。



「・・・」




「・・・て、補修用の問題集、どこまでやってるの?
 補修の最終回には提出だよ?」


机の上に座ったまま、
は向かいの高杉の机の上に広げっぱなしになっている問題集に手を伸ばす。

だが、その手は呆気なく高杉の手に掴まれ、自由を失った。


「高杉君?」
目を丸くして驚いているとは目を合わせずに、
掴んだ手を見つめながら高杉は呟く。











「補修な・・・お前が取るって言ったから取っただけなんだよなァ、正直な所」








「!・・・・・」


かあああ、との顔が赤くなる。
のは直接見てはいないが、掴んでいる手が心なしか熱い。

部活動をしている生徒の掛け声、
グランドの雑木林から聞こえてくる蝉の泣き声が、
いつもより遠くに聞こえる。

この教室の中だけ、時間が止まった様だった。



はぁ、と溜息一つ漏らした後、
はぽつりと言った。



馬鹿じゃないの。と



顔を真っ赤にして。



























「・・・・・・・帰るか」



「・・・うん」



「流石に時計の跡も消えてるだろ」



確認しようとした高杉の掌を遮り、
細い女の指がその頬に触れる。




「・・・・・・うん、大丈夫みたい。・・・写メ撮っとけば良かったな」



「・・・」



「・・・」




先ほど掴んだ手はそのままに、高杉は歩き出した。
抵抗する様子も見せず引っ張られるまま、もその後に続く。


廊下は教室よりも少しひんやりしていた。
人気の無い廊下には階段に向かって歩む足音がよく響く。









「・・・つーか」


「?」


「心配する位なら」


「うん?」


「宿題手伝いやがれ」


「ぇえー・・・・・・しかたないなぁ・・」


「・・・」


「・・・」




















「・・・今日、暇か」


「・・・うん」


「・・映画でも見に行くか」


「あ、いいね」





















肩を並べる二人の姿は、やがて踊り場に消えていった。










end