「まぁた貴方とですか…」


のけだるそうな声がそれに不似合いなオフィス内に響いた。当の”貴方”、もといセフィロスは無言で、しかしその口端を吊り上げ不敵な笑みを浮かべながら任務の依頼書を彼女に差し出す。が受け取った後、


「まぁ、そういうな。今日はいいものを見せてやる」


はい?と首を傾げるにも何やら優越そうである。


「いいものって…貴方と入るといつもロクな事が起きませんが…」


ただの警備任務がテロの制圧になったり見回りがスパイ生け捕り任務になったりその他色々。百戦錬磨の英雄と一緒だったから乗り切れた様なものだが言い換えれば英雄と同じ任務に就かなければそんな悲惨な激務に遭う事は無かったとも言えはしないだろうか?まぁ、そんな事は口が避けても言えないが。



画して、本日の任務、
「神羅社及び参画企業の合同パーティを警備せよ!」開始。
任務地、六番街パーティ会場屋上及び周辺上空。
出動ソルジャー一覧
(ソルジャー2nd)
セフィロス(ソルジャー1st)


そしてこれは、真夏のある夜のお話。





夜の華 英雄編





晴天の夜空の下、開かれたバルコニーには人があふれていた。女性は華やかなドレスを身に纏い男性は整ったスーツや正装、まるでいつぞやの時代、絵本にでも出てきそうな舞踏会の様である。 はそんな賑やかな会場の、上。ミッドガルの夜景を眼下にした屋上にその身を置いていた。しかも、英雄とたった二人っきりで。




「………思ったより暑くないですね」


「夏といえども夜は風が冷えているな」


「(ああ、夜景もこんなに綺麗だし…これで一緒にいるのがザックスやクラウドなら一杯やろうかって気にもなるんだけどな…)」


(ちなみにアンジールと夜間の暇な警備任務に就いたときはかなりの高確率でこっそり杯を交わしている。)


まさか英雄に飲み友達的なノリで「一杯やりませんか?w(ニコッ)」など声を掛けるなど恐れ多すぎて出来ない。これまで何回が任務で行動を共にしてきた事でそれまで抱いていた冷徹で鬼神の様だった彼に対するイメージは大分払拭されてはいるのだが…。


「(…って何普通に任務中に晩酌する計画立ててんだ…)」


頭を振ったがそっと後ろを振り返ると、セフィロスはアスファルトで整備されたヘリポートの端の方に腰を下ろし、夜風に髪を遊ばせている。下りた瞼と靡く髪が美しい顔立ちを引き立たせており、ここが舞踏会の会場ならどこかの国のお姫様とも間違われてしまいそうな程、美人だ。


それはそうと、会場並びに屋上、周辺上空一体をソルジャー二人に丸投げとは驚いたものである。一階の会場入り口や路上周辺には他の兵士が配置されてはいるが、周辺上空という不特定な広範囲の比にはならない。はどちらかというと近距離より遠距離の戦闘、狙撃等を専門としているから空中もある程度は護る事が出来る。がそんな事は理由にはならないだろう。
ソルジャー部門に余程の信用が寄せられているか、英雄に絶対の信頼があるのか、それとも、神羅が適当なのか。



「椅子でもご用意しましょうか?セフィロスさん」
振り返っているをセフィロスが腰を下ろしたまま見上げ、小さく笑った。
「必要無い。それよりそろそろ時間だ。お前もこっちに来て座れ」
「??」


時間?

何の事を指しているのか検討もつかないまま促され、セフィロスの隣にそっと腰を下ろす。 が首を傾げたままちらりとその横顔を垣間見ると、オフィスで見せたあの笑みが浮かんでいた。


「えっと…時間って、何かあるんですか?」
「始まれば分かる。あと1分だ」
「…?」


薄闇の中、目を凝らして腕時計をみると、時計の針が指しているのは19時59分。長針が目で追う毎に文字盤の頂へと向かっていく。
そして、


5、4、3、2、1…




ミッドガルの夜空が午後8時を迎えた、その時――



…ドンッ!


「!?」

吹き抜けるビルの夜風が突如、何かが爆発する音によって遮られた。
追って得たいの知れない甲高い鳥の鳴き声の様な音が響き渡る。

「何…!?」
「落ち着け」



思わず立ち上がり掛けたをセフィロスが留めた瞬間、





パーン!





暗い夜空一杯に咲いた輝く大きな花。そして階下のバルコニーから聞こえたのは歓声。
何が起こったのか、は悟った。



「は…花火…」



一発目を皮切りに空には彩り鮮やかな花が次々に咲き始めた。咲いては散り、また咲いては空に融けて消えてゆく。

午後8時は花火の開始時刻だったのだ。





「いいものを見せてやると言っただろう?」

「これ…知ってたんですか…」


呆気に取られていたも次第に花火の美しさに魅入られ、夜空を夢中で見上げた。
英雄は相変わらずの様だが、先ほどの笑みに加えてどこか満足そうな顔をしている、様に見えた。
他に誰もいない屋上。階下のバルコニーより下手をすれば見渡しのいいこの場所で夏の風物詩を占有できるなんて、美味し過ぎる任務だ。


ふと脳裏に思念が過ぎる。



まさか、彼はこれを私に見せたかったから、任務のパートナーに…?



だとしたらこれは反則だ、と言ってやりたいものだ。惜しみない笑顔で。


彼女はまだ気付いていない。
嬉しかったのは、特等席からの花火の占有、ということなどではなく彼と花火を見ることが出来たから、だという事に。






END










<後話>

花火がフィナーレを迎えた午後9時。




「綺麗でしたね、花火」
「ああ」
「あの、何ていうか…ありがとうございました」
「いいんだ、俺は―」


と、




プルルルルルル




鳴り響いた無線の着信。何だか良い雰囲気だった空気が凍りついた。
一瞬眉間に皺を寄せたセフィロスが無線を取る。



「何だ。………何?反抗組織らしき集団に襲撃されているだと?
……おい、どうした?…―!!」



ああ、そうか。またそんな展開ですか。
と無線で繰り広げられている会話を聞きながら落ち込みたくなる気持ちをは抑え、さっと立ち上がった。



「…行きましょう、セフィロスさん。今宵も忙しくなりそうですね」



でも今回は貴方の所為にはしないで差し上げます。