気温の低い日は空気が澄んで星の数が多い。無意識の内にその数を数えていた最中、ピピッと小さな電子音がして、夜空を見つめていたツォンは視線を落として腰の受信機に触れた。



か」

その問い対して少しのノイズの後、


『えぇ。今ターゲットを捕縛したわ』


淡々とした口調で女性が告げる。
張り詰めていた空気がふっと和らぎ、ツォンはそうか、と小さく返すと通信機のスイッチを切り替え、


「…―全員に告ぐ、ターゲット捕縛完了。現時刻を以てミッションは終了。全員本社へ帰還せよ」



今宵も、兵士達はその務めを無事に果たした。
但し締めを忘れてはならない。通信機の向こうで恐らく安堵感を滲ませているであろう女性ソルジャーを労う事を。



、ご苦労だった。本社に帰還後、今日はすぐ上がって構わない」
『え、報告書書かなくてもいいの?…いや、い、いいんですか…?』



気の抜けた返事。聞いてはいるが最早帰る気満々だ。その原因も、容易く予想がつくのだが。



「というか書くつもりないだろう。その返事的にも」
『いえ、そんな事…………でも、出来たらそうしたいです、今日は…約束があるので』
「なら遠慮するな、今日ぐらい、報告書はそこにいる子犬にでも任せておけばいい」
『子犬wwwだってさ、ザックス』



通信機の向こうから別の喚く声。



『俺は子犬じゃねー!ていうか俺も約束あるんだけど…まぁ、あいつ待たせると怖いしな。早く行けよ、。報告書は俺が書いとくからさ』
「任せたぞ。ブリーフィングルームで待っているからな」



じゃぁ、そういう事で、と通信機を切った後。通信機の向こう、捕縛現場は早くも片付けが済もうという所だ。



「ふぅ、今日も無事生き長らえたわね」
「俺とがいるんだから、余裕だろ?」
「派手に壁壊したやつがそんな事言いますか。暴れるから報告書が長くなるのよ」
「次から気をつけまーす」
「はいはい。じゃ、捕まえたスパイさんも連行された事だし、帰りましょうか」



兵士達は殆ど撤収して静寂を取り戻した五番街広場から二人も立ち去ろうとした、その時、がふと立ち止まった。



「どした?
ザックスの視線の先で、は広場の開けた夜空を顧みている。



「いや…寒いなと思って…星も、多いかなってね」
「そういえば任務始まる頃から息白いよな。ま、星の数は俺の故郷の方が断然上だけど」
「そうでしょうね」
「あ、今田舎だからとか思っただろ」
「そんな事…言ってないわよ」
「言ってないけど思っただろ」
「…」
「おいっ!w」



そして去る人影。五番街はやっと静かな夜を迎えた。静寂には似つかわしくない赤と緑の電飾だけが輝く、聖なる夜。





神羅本社ビルには昼夜など関係ない。季節などもっと関係ない。いつも同じ光、同じ気温、同じ景色。ただ一つ、来客用に据えられた受け付け横のクリスマスツリーだけが目新しい。私服に着替えたがエレベーターを降り、受付嬢と会釈を交わして人影の少ないロビーを横断する。向かう先は待ち合わせに常用されているテーブル席。の、一番端に座っている後ろ姿。白い椅子が妙に映える、黒のコートに銀の長髪、と





「お待たせしました、英雄さん」
「…」



呼びかけに無言で振り返る整った顔立ち。口元に運び掛けていたコーヒーカップを置き、すっと立ち上がった。背が高く、と並ぶと頭二つ分は違う。透き通るような綺麗な緑眼で早足で歩み寄ってきた小柄な女性を見下ろしていたが、無言で見つめ合う事数秒、



「…怪我はしていない様だな」

抑揚の無い声。

「ん?あ、任務?今日はザックスと一緒だったし、スパイさん捕獲任務だったから割と…」
「Cランク任務の割には遅いと思って、少し心配した」
「…すみませんねぇ、トロくて」


ていうかザックスが壁壊してスパイを生き埋めにしたから、それの救出の方に時間が掛かったのよ、と歩き始めたセフィロスの後を追いながらが説明する。



「そうか」
聞いているのかいないのか、とりあえずな感じの返事を返され、は一瞬むっと眉をしかめた。そして、眉間に刻まれた乙女として嘆かわしい皺が、屋外に出て寒気に晒される事で更に深く刻まれる事になる。



「寒い!」
「ああ」



任務を終えた時より寒くなっている気がする。時間が遅くなっているのもあるが、それにしても指先が痺れる程の寒さはミッドガルでは珍しい。
首に巻いていたマフラーに顔半分を埋めたが長身の隣に並んだ。セフィロスがそっと手を取って何事もないように歩き出すと、は自分に平静を言い聞かせる様に深く息を吐き出した。その様子が少し可笑しくて彼が微笑んだ事になど微塵も気付きはしなかった。



「ああ…温かいのね、案外」
「案外…」
「見た目的に体温とかなさそうだから」
「お前…俺を何だと思ってるんだ」
「いや、だから温かくて安心したのよ。誉めてるのよ、セフィロスさん」
「……さっさと帰るぞ」
「はいはーい」


は自分の手を握る琢磨しい掌を、精一杯握り返した。いつもと変わらない夜、



「ああ、ねえ、、、メリークリスマス」
「………メリー、クリスマス」



ほんの少し、特別な夜。





end